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第五章 吉田さん

3 吉田さんと真理子

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  息を切らしながら吉田さんに追いつくと、堤防に座る吉田さんの後ろ姿を見つけた。柔らかそうな茶色ぽい髪の毛がさらさらと風に靡いている。

  こんなところまで追いかけたきてしまったけれど声を掛けるべきなのかなと考える。いや待てよ、なんて声を掛けよう?  

『吉田さん、元気ですか?』う~ん、なんだか怪しげだよね。『海で泳ごうかなと思って来たら吉田さんと会うなんてびっくりしました~』水着なんて持ってきてないではないか。持ってるのはゴーヤだ。『偶然ですね、わたしも海を見に来たんですよ』あ、そもそもわたし仕事中だよね。困ったなとわたしは頭を抱えた。

  これといった言葉が見つからないので帰ろうかなと思ったその時、吉田さんがくるりとこちらに振り返った。

  吉田さんの猫のように丸くて大きな目と目が合った。

「梅木さんではないですか?  ここで何をしているんですか?」

  吉田さんはさほど驚いた素振りも見せずに言った。

「……あ、その……海って綺麗ですよね……あははっ」

  わたしは焦ってしまいよく分からないことを言ってしまった。吉田さんは不思議そうにわたしの顔をじーっと見ている。なんだかその瞳が笑っているように見えるのは気のせいだろうか。

「梅木さん、スーパーの袋からゴーヤが透けて見えていますよ」

  吉田さんはクスクスと笑った。

   わたしは目を落として自分が持つスーパーの袋を見ると吉田さんが言ったようにゴーヤが透けて見えていた。

「あははっ、ゴーヤが、ゴーヤが透けて見えていますね」

  みどりちゃんがゴーヤなんかわたしに買いに行かせるからこうなるんだよと心の中でみどりちゃん許さないんだからねと思った。

「ゴーヤ娘さん、良かったら立っているのもなんですから座りませんか?」

  吉田さんは、自分が座っている隣をトントンと指差した。
  
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