上 下
33 / 75
第三章 ここから始まる

7 古書カフェ開店企画ですよ

しおりを挟む
「ねえ、みどりちゃん、吉田さんは結局何しに来たんだろうね?」

  わたしはテーブルを布巾で拭きながら言った。

「さあね?  お菓子を食べに来たのかな?  あ、それか動物のお客さんの話をしに来たのかな?」

「うん、だけど吉田さんの姿が忽然と消えたね」

「うん、帰ったみたいだね」

  わたしとみどりちゃんは顔を見合わせて首を傾げた。

  吉田さんはよく分からない人だ。わたし達にこの古書カフェ店を任せて何をしているのだろか?   お店が繁盛しなくても気にする素振りも見せない。考えると謎が深まるばかりだ。わたしは吉田さんのことを何も知らないということに今更ながら気がついた。

  あの猫のように自由きままな姿にハイビスカスのTシャツ。吉田さんの姿が頭の中に浮かんでは消えた。

  猫が寝ている時に見せる幸せそうな細くなるあの可愛らしい目に吉田さんの笑顔は似ている。なぜだか分からないけれどどんな人なのかなと吉田さんのことが気になってきた。

  吉田さんがどんな人なのか知りたくなってきた。


    それからもお客さんはなかなか来なかった。わたしとみどりちゃんはあくびをしたり本を読んだり書棚の整理をするなどして時間を過ごした。

  ゆっくりと考えていこうとは思ったけれどこんなことで良いのかなとやっぱり悩んでしまう。本がたくさん詰まった広い店内にわたしとみどりちゃんの二人だけ。これはなんとも言えない贅沢な空間だと思う。

「ねえ、真理子。古本の安売りセールでもやろうか?  それとチラシも配ろうよ」

  みどりちゃんは読んでいた本を机の上にパタンと置き立ち上がった。みどりちゃんの顔を見ると目がキラキラ輝いていた。

「うん、やりたい、やりたいよ。古本の安売りセールっていいかもね。それからチラシもあるとお客さんに気がついてもらえるかもね」

  わたしは嬉しくなって飛び跳ねた。

「真理子ってば飛び跳ねないでよ。埃が立つよ」

  みどりちゃんは嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「だって、希望が湧いてきたんだもん」

  わたしは嬉しくてぴょんぴょんとうさぎのように跳んでしまった。


  「やっぱり開店セールだよね。お店の入口に看板を出したいね」

  みどりちゃんはペンを持ちノートに『安売りセール、看板』と書いた。

「うん、夢が膨らむね。全品半額セールとかはどうかな?」

「うん、だけど真理子いきなり全品半額というのもね」

  みどりちゃんはそう言ってうーんと唸った。

「全品半額はダメかな?  うーん、そうか……あ、じゃあわたしとじゃんけんして勝ったら半額とかは?」

「えっ、真理子とじゃんけん~何よそれ?」

「楽しくないかな?」

「そうだね、それ採用!」

  みどりちゃんはにんまりと笑いノートに『真理子とじゃんけん。真理子に勝ったら本を半額にする』なんて書いた。まさかのあっさり採用にわたしは驚いた。

「やったね、みどりちゃん」

  わたしは、嬉しくなってぴょんぴょん飛び跳ねた。

「だから真理子飛び跳ねないでよ。埃が立つでしょう」

「はい、はい、分かりました」と言いながらぴょんぴょん飛び跳ねてしまった。

「真理子ってば飛び跳ねないでよ」

  みどりちゃんはキッとわたしの顔を睨んだ。

「はーい」

「ふん、真理子、何がはーいよ。さあ、そうと決まればいろいろ忙しくなるよ」

  みどりちゃんはノートに『頑張ろう』と書いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

京都あやかし撮影所 ~仕出し陰陽師の福松くん~

音喜多子平
キャラ文芸
【第六回キャラ文芸大賞 奨励賞】 & 【第一話完結】  福松友直はブラック企業に勤めているうちに精神を削られ、「どう生きても辛いなら好きなことをして辛い方がいい」という一つの結論を導きだす。  そんな福松にはドラマや映画で活躍する役者になりたいという燻っていた願望があったのだ。  とりわけ時代劇に心惹かれていた彼は、時代劇撮影のメッカである京都は太秦に赴き役者として研鑽を積もうと考えた。幸いなことに将来の時代劇俳優を育成するという名目で「梅富士撮影所」なる会社がスクールを開講していた。ところがいざ撮影所に入所した福松は衝撃の真実を知らされる。 「梅富士撮影所」は古から存在する妖怪変化の類いを、なんと役者として起用していたのである。  しかも、福松には普通の人間とは比較にならないほどの妖怪を操る力があることが判明して…

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

妖狐

ねこ沢ふたよ
キャラ文芸
妖狐の話です。(化け狐ですので、ウチの妖狐達は、基本性別はありません。) 妖の不思議で捉えどころのない人間を超えた雰囲気が伝われば嬉しいです。 妖の長たる九尾狐の白金(しろがね)が、弟子の子狐、黄(こう)を連れて、様々な妖と対峙します。 【社】 その妖狐が弟子を連れて、妖術で社に巣食う者を退治します。 【雲に梯】 身分違いの恋という意味です。街に出没する妖の話です。<小豆洗い・木花咲夜姫> 【腐れ縁】 山猫の妖、蒼月に白金が会いにいきます。<山猫> 挿絵2022/12/14 【件<くだん>】 予言を得意とする妖の話です。<件> 【喰らう】 廃病院で妖魔を退治します。<妖魔・雲外鏡> 【狐竜】 黄が狐の里に長老を訪ねます。<九尾狐(白金・紫檀)・妖狐(黄)> 【狂信】 烏天狗が一羽行方不明になります。見つけたのは・・・。<烏天狗> 【半妖<はんよう>】薬を届けます。<河童・人面瘡> 【若草狐<わかくさきつね>】半妖の串本の若い時の話です。<人面瘡・若草狐・だいだらぼっち・妖魔・雲外鏡> 【狒々<ひひ>】若草と佐次で狒々の化け物を退治します。<狒々> 【辻に立つ女】辻に立つ妖しい夜鷹の女 <妖魔、蜘蛛女、佐門> 【幻術】幻術で若草が騙されます<河童、佐門、妖狐(黄金狐・若草狐)> 【妖魔の国】佐次、復讐にいきます。<妖魔、佐門、妖狐(紫檀狐)> 【母】佐門と対決しています<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)> 【願い】紫檀無双、佐次の策<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)> 【満願】黄の器の穴の話です。<九尾狐(白金)妖狐(黄)佐次> 【妖狐の怒り】【縁<えにし>】【式神】・・・対佐門バトルです。 【狐竜 紫檀】佐門とのバトル終了して、紫檀のお仕事です。 【平安】以降、平安時代、紫檀の若い頃の話です。 <黄金狐>白金、黄金、蒼月の物語です。 【旅立ち】 ※気まぐれに、挿絵を足してます♪楽しませていただいています。 ※絵の荒さが気にかかったので、一旦、挿絵を下げています。  もう少し、綺麗に描ければ、また上げます。  2022/12/14 少しずつ改良してあげています。多少進化したはずですが、また気になる事があれば下げます。迷走中なのをいっそお楽しみください。ううっ。

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

マスクなしでも会いましょう

崎田毅駿
キャラ文芸
お店をやっていると、様々なタイプのお客さんが来る。最近になってよく利用してくれるようになった男性は、見た目とは裏腹にうっかり屋さんなのか、短期間で二度も忘れ物をしていった。今度は眼鏡。その縁にはなぜか女性と思われる名前が刻まれていて。

致死量の愛を飲みほして+

藤香いつき
キャラ文芸
終末世界。 世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。 記憶のない“あなた”は、彼らに拾われ—— ひとつの物語を終えたあとの、穏やか(?)な日常のお話。 【致死量の愛を飲みほして】その後のエピソード。 単体でも読めるよう調整いたしました。

ざんねんな妖精

黒いたち
ファンタジー
ハエトリガミにひっついたのは、紅茶の妖精だった。 助けてやると、恩返しをするから、古書店をつぶしてカフェにしろと脅してきた。 断固拒否する青年店主と、紅茶で恩返しがしたい妖精の日常コメディ。 ※ 恋愛要素は薄めです。

神の居る島〜逃げた女子大生は見えないものを信じない〜

(旧32)光延ミトジ
キャラ文芸
月島一風(つきしまいちか)、ニ十歳、女子大生。 一か月ほど前から彼女のバイト先である喫茶店に、目を惹く男が足を運んでくるようになった。四十代半ばほどだと思われる彼は、大人の男性が読むファッション雑誌の“イケオジ”特集から抜け出してきたような風貌だ。そんな彼を意識しつつあった、ある日……。 「一風ちゃん、運命って信じる?」 彼はそう言って急激に距離をつめてきた。 男の名前は神々廻慈郎(ししばじろう)。彼は何故か、一風が捨てたはずの過去を知っていた。 「君は神の居る島で生まれ育ったんだろう?」 彼女の故郷、環音螺島(かんねらじま)、別名――神の居る島。 島民は、神を崇めている。怪異を恐れている。呪いを信じている。あやかしと共に在ると謳っている。島に住む人間は、目に見えない、フィクションのような世界に生きていた。 なんて不気味なのだろう。そんな島に生まれ、十五年も生きていたことが、一風はおぞましくて仕方がない。馬鹿げた祭事も、小学校で覚えさせられた祝詞も、環音螺島で身についた全てのものが、気持ち悪かった。 だから彼女は、過去を捨てて島を出た。そんな一風に、『探偵』を名乗った神々廻がある取引を持ち掛ける。 「閉鎖的な島に足を踏み入れるには、中の人間に招き入れてもらうのが一番なんだよ。僕をつれて行ってくれない? 渋くて格好いい、年上の婚約者として」 断ろうとした一風だが、続いた言葉に固まる。 「一緒に行ってくれるなら、君のお父さんの死の真相、教えてあげるよ」 ――二十歳の夏、月島一風は神の居る島に戻ることにした。 (第6回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった方、ありがとうございました!)

処理中です...