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第三章 ここから始まる
5 わたしと吉田さん似ていますか
しおりを挟むわたしはなんだか可笑しくなり、あははっあははっと笑ってしまった。
「う、梅木さん。そんなに笑わないでくださいよ」
吉田さんは顔を赤くして頭を掻いた。いつも冷静沈着な吉田さんでも慌てることがあるのかなと思うと親近感を覚えた。
「真理子、吉田さん、何か面白いことでもあったの?」
みどりちゃんがお盆にティーカップを三客載せて戻ってきた。
「あのねみどりちゃん、吉田さんがね口の周りにちんすこうの食べかすをくっつけてたんだよ」
わたしは、吉田さんを指差して言った。
「ち、ちょっと梅木さん……」
吉田さんは慌てて手の平で食べかすが付いてないか顔を触り確かめている。その姿がなんだか可愛らしくて笑えた。
「へーっ、食べかすをくっつけていたんですか? って言うかもう食べているんですか?」
みどりちゃんはティーカップをテーブルの上に並べながらクスクス笑った。
「いやもう食べ物を目の前にすると我慢できなくてつい」
吉田さんは恥ずかしそうに笑った。
「吉田さんはやっぱり真理子に似ているね」
みどりちゃんはわたしの隣の椅子に腰を下し、ちらりとわたしの顔を見て笑った。
「えっ、どこが似ているのよ?」
わたしは、みどりちゃんが淹れてくれたアップルティーを飲みながら言った。
「真理子さっそくアップルティー飲んでるじゃん。ほら、目の前に座っている吉田さんなんて二個目のちんすこうを食べながらアップルティー飲んでいるし二人共なんだか動物ぽいよ」
みどりちゃんは、そう言いながら「いただきます」と手を合せてちんすこうにゆっくりと手を伸ばした。
「みどりちゃん何よそれ~なんだか自分だけしっかりしていて人間みたいじゃん」
わたしはぷくりと膨れながらパイナップル味のちんすこうに手を伸ばした。
「ぷっぷっ、ちょっと、梅木さんなんですかそのみどりちゃんだけ人間みたいって俺と梅木さんは人間じゃないみたいに聞こえますよ」
吉田さんはあははっと大きく口を開けて笑った。
「だって、みどりちゃんが……わたしと吉田さんのことを動物扱いするんですもん」
優雅にアップルティーを飲んでいるみどりちゃんをわたしはじろーりと睨んだ。けれどみどりちゃんは気にも留めず「ああ美味しいな」なんて言っているんだから嫌になる。
「仕方ないですね……それはそうとお客さんは来ましたか?」
吉田さんは、ちんすこうをかじりながら言った。
「あ、お客さんですか……それがお客さんなんですが」
「お客さんがどうしましたか?」
吉田さんはにっこりと笑った。
「吉田さんが帰った後なんですけど、動物のお客さんが来ました。それもお喋りをする動物のお客さんなんですよ」
わたしは、お喋りをする動物のお客さんが来たなんて言って吉田さんがどんな反応をするのかなと気になったけれど、「あ、動物のお客さんが来たんですね」なんてまるでなんでもない当たり前のことのように答えるので不思議に思った。
みどりちゃんの顔を見ると目が合い首を傾げていた。
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