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第一章 古書カフェ店のスタートです
13 吉田さんの意味深な言葉
しおりを挟むそれからも時計の針がカチカチと鳴り時間があれよあれよという間に過ぎていく。
「十九時になりましたね……お客さん来ないですね」
吉田さんが大きなあくびをしながら言った。猫のようにびろーりーんと大きな伸びまでして呑気だな。
窓からオレンジ色の夕日が差し込んでくる。キラキラと輝くオレンジ色が綺麗だなとわたしはぼんやりと眺めた。
夕日をぼんやりと眺めていると学生時代の居残り補習などを思い出し懐かしいなと遠い記憶が甦ってきた。あんなに嫌だった毎日も過去になるとキラキラ輝くから不思議だ。
あの頃に戻りもう一度わたしの出来損ないの人生をやり直したいななんて思ってしまう。
何かを掴みたくてだけど何も見えてこない哀しい現実が目の前にある。
「では、僕はそろそろ帰らせて頂きますね」
ぼーっと物思いにふけっていたわたしの耳にとんでもない言葉が聞こえてきた。
「……はい? 帰らせてもらうですって!」
わたしは、大きな声を思わず出してしまった。みどりちゃんもわたしと同じように「えっ!」と言った。
「はい、もう夜になりましたしね。お二人もそろそろ戸締りをして上がってくださいね。あ、でもこれからお楽しみがあるかもですよ」
吉田さんはそう言ってにっこりと笑った。何だろうか? お楽しみがあるかもですよと言った意味深な言葉が気になる。
猫のように自由気ままでハイビスカスのTシャツの柄が眩しい吉田さんが、「では、お先に失礼します。また来ますね、明日も頑張ってくださいね」と言って手を振った。
「お疲れ様でした。気をつけて帰ってくださいね」とわたしとみどりちゃんも手を振った。
「お二人も良い夜を……」
吉田さんの後ろ姿をわたしとみどりちゃんは見送った。少し茶色がかった髪の毛が沖縄の風にサラサラと揺れて綺麗だなと思った。
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