上 下
15 / 75
第一章 古書カフェ店のスタートです

9 吉田さんはやっぱり不思議な人

しおりを挟む
ーーーー
「吉田さん……お客さん来ませんね。いつもこんな感じだったんですか?」

  わたしは、五回目の溜め息をついたところだ。だって、お店がオープンしてから一時間も経つのにお客さんが一人も来ないのだから。

「まあ、そう焦らないでくださいよ。お客さんがどれくらい来るかなんて俺は知らないですよ」

  吉田さんはそう言ってニコニコと笑った。

「そうなんですね。って、ちょっと、ちょっと待ってくださいよ。どうして知らないんですか?  吉田さんはこの店のオーナーなんですよね?」 

「はい、オーナーですよ。ですが、お店開くのは初めてですからね」

  吉田さんはクスクス笑っている。

「……はい?  初めてって」

  わたしは、吉田さんのパッチリした黒目が大きいその目をじっと見て言った。

「どういうことですか?  以前から営業していたんじゃないんですか?」

  みどりちゃんも驚きを隠せないようだ。

「この古書カフェ店のオープンは今回が初めてですよ」

  吉田さんは信じられないことを当たり前のように言った。


  「みどりちゃん、吉田さんて変だね……」

「うん、そうかもしれないね。真理子とどっこいどっこいだね」

  みどりちゃんはちらりと吉田さんを見てからわたしに目を移して言った。

「ちょっと、みどりちゃん。どうしてわたしとどっこいどっこいなのよ。いつも本当に酷いこと言うよね」

  わたしはみどりちゃんを睨み抗議するけれど、

「だって、本当のことでしょう?」とみどりちゃんはにやりと笑った。

  わたしとみどりちゃんが言い合っていると、それまで黙っていた吉田さんが、「あの、梅木さんに並木さん、黙って聞いていましたが俺のことを変だと言っていますよね?」と言った。

「だって、本当のことですもん。ねっ、みどりちゃん」

「うん、真理子、わたしもそう思うよ。だって、吉田さんは以前から古書カフェ店を営業してきた素振りを見せてましたもんね」

  わたしとみどりちゃんが、二人で変ですよと言うと

吉田さんは頭をポリポリ掻き、

「……そう思わせたのならすみません。俺は他にもやっていることがありましてこの古書カフェ店の営業をお二人にお任せしたいと思ったんですよ」

  そう言って微笑む吉田さんの笑顔はなんだか不思議な輝きを放っていた。


  
  その不思議な輝きが何なのかは分からないけれど、 吉田さんには不思議な何かがあるように感じられた。

  窓越しに差し込んでくる太陽の光が吉田さんの柔らかそうな髪の毛を照らした。茶色ぽく輝いて見えるその髪の毛がなんだか綺麗だなとわたしはぼんやりと見つめた。

「なんだかよく分かりませんがわたしに任せてください。良い古書カフェ店作りに力を注ぎますね」

  わたしは、右手をグーにして気合いを入れてみせた。

「梅木さん、ありがとう。めちゃくちゃ気合いが入っていますね」

「はい、だって、わたしはこの古書カフェ店に惹きつけられたんですもん!  真理子スマイルで頑張ります」

  わたしは、にっこりと微笑んだ。

  だって、本当にこの古書カフェ店に惹きつけられてわたしはここにやって来た。吉田さんが何者なのかよく分からないけれどお役に立ちたいなと思った。

「わたしも頑張ります。任せてくださいね!」

  みどりちゃんもわたしと同じように右手をグーにして気合いを入れている。

  「お二人ともありがとうございます。よし、これで俺は自由な時間が持てるぞ」

  吉田さんの笑顔はぱーっと花開いた。その笑顔は向日葵みたいなそれはもう明るい笑顔だった。良かった喜んでもらえたなと思うと嬉しくなった。

  だけど、自由な時間が持てるぞと言ったその言葉がちらりと頭に引っかかるのは気のせいなのだろうか。まあ、なんでもいいか。わたしはこの古書カフェ店で頑張りたいのだから。

「それにしてもお客さんが来ませんね」

  吉田さんはひとごとのように呟き大きく伸びをした。

「吉田さん、なんだかひとごとみたいですね……」

  みどりちゃんが、ちょっと嫌そうな声で言った。

「あ、すみません。ちょっとだけ肩の荷が下りたものですから」

  吉田さんはくふふっと嬉しそうに笑い肩を震わせた。何だろう?  吉田さんのイメージが少しずつ変わっていくような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷

河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。 雨の神様がもてなす甘味処。 祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。 彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。 心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー? 神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。 アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21 ※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。 (2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)

わたしの周りの人々(ダイジェスト版)

くるみあるく
ライト文芸
本作品「わたしの周りの人々(略称:わたまわ)」は沖縄人ヒロイン+韓国人宣教師+LGBT中国人の二重三角関係をつづった物語です。Amebaブログとノベルアッププラスに掲載している内容の一部をこちらへ転載します。 ameblo版「わたまわ」目次 https://ameblo.jp/ulkachan/entry-12686575722.html ノベルアッププラス版「わたまわ」目次 https://novelup.plus/story/810948585/937751426

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

深窓の骸骨令嬢

はぴねこ
キャラ文芸
 スカーレットは今日も日当たりのいいテラスでお茶をしていた。他国から取り寄せられた高級茶葉は香り高く、スカーレットの鼻腔をくすぐる。丸テーブルに並べられた色とりどりのお菓子は目も舌も楽しませてくれる。  とは言っても、スカーレットには鼻も目も舌もない。普通の人間ならば鼻がある部分には歪なおおよそ二等辺三角形であろうという穴が、目のある部分にはこれまた歪な丸い穴が空いているだけだ。  そう。彼女は骸骨なのだ。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【完結】白と青と星

唄川音
恋愛
クラスメイトの青瀬は不思議な人だ。野球部だけど熱血っていうよりは、のんびりしていて目立つ方ではない。そんな青瀬が、古書店の孫娘であるわたしに、詩集の取り置きを頼んできた。野球部男子が詩集を、それもイギリスで書かれた古い詩集を読むなんて意外! でもこの詩集をきっかけに、わたしと青瀬の距離は、ゆっくりと近づいて行く。

おきつね様の溺愛!? 美味ごはん作れば、もふもふ認定撤回かも? ~妖狐(ようこ)そ! あやかしアパートへ~

にけみ柚寿
キャラ文芸
 1人暮らしを始めることになった主人公・紗季音。  アパートの近くの神社で紗季音が出会ったあやかしは、美形の妖狐!?  妖狐の興恒(おきつね)は、紗季音のことを「自分の恋人」が人型に変身している、とカン違いしているらしい。  紗季音は、自分が「谷沼 紗季音(たにぬま さきね)」というただの人間であり、キツネが化けているわけではないと伝えるが……。  興恒いわく、彼の恋人はキツネのあやかしではなくタヌキのあやかし。種族の違いから周囲に恋路を邪魔され、ずっと会えずにいたそうだ。 「タヌキでないなら、なぜ『谷沼 紗季音』などと名乗る。その名、順序を変えれば『まさにたぬきね』。つまり『まさにタヌキね』ではないか」  アパートに居すわる気満々の興恒に紗季音は……

いらっしゃいませ三日月古書店

奈倉 蔡
キャラ文芸
町の一角にある古書店。そこは女子高校生が切り盛りしている。地域に寄り添うそんな場所。様々なお客さんと本…。きれいに折り重なって綴られる王道古書店ストーリー!! 開幕します。

処理中です...