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プロローグ 沖縄と不思議な猫

3 不思議な予感

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  那覇にバスが着き、わたし達は降りた。さあ、たくさん買い物をしよう。そう思うと嬉しくなりるんるんと声も弾んだ。

「みどりちゃん、シーサーをいっぱい買おうね!」

「あのね……真理子の部屋はシーサーで溢れかえっているでしょう?  まだ買うの?」

  みどりちゃんは、ふぅーと溜め息をついた。同じ歳の二十五歳なのにみどりちゃんはわたしのことを子供扱いするのだから嫌になる。

  分かっている。わたしは人より幼くて幼稚なことなんて。

「うん、シーサーってとっても愛くるしいんだもん!」

「真理子、あの鼻が上を向き口が大きくてライオンや狛犬に似たシーサーが可愛いの?」

  みどりちゃんは不思議そうにわたしの顔をじっと見た。

「うん、可愛いよ」

  わたしは、ニコニコ笑った。

  因みにシーサーとは沖縄県で見られる伝説の野獣。家や人に災いをもたらす悪霊などを追い払う沖縄の守り神で魔除けみたいなものらしい。よく沖縄県などの屋根の上に設置されている。

  観光客のお土産としても人気で置物などいろいろある。


  「ふーん、真理子は変わっているもんね。好きなだけシーサーでもなんでも買いなよね」

「みどりちゃん、またそんな意地悪なことを言うんだから」

  わたしがぶつぶつ文句を言っているというのに気がつくとみどりちゃんは、スタスタ先を歩いて近くのお店を見ていた。

「待ってよ。みどりちゃん、人生はゆっくり気楽に生きるのが一番だよ。そんなに急いでばかりだと幸運も逃げるんだからね」

  もっと周りの景色をゆっくりみて楽しめばいいのになと思う。なんてね、わたしみたいにぼんやりしているのもどうかなとは思うけれど。

  そんなことを考えていると目の前を可愛らしいトラ柄の猫がてくてくこちらに向かって歩いてきた。

「こんにちは、猫さん」

  わたしは、可愛らしい猫さんの目を見て挨拶をした。だけど、猫さんは、わたしの顔をチラリと見たかと思うとすぐにプイッと横を向いて目をそらし逃げてしまった。

「もう逃げないでよ」

  とその時、猫はぴたり立ち止まった。何だろ?  なんだか不思議な感じがした。

  


  一瞬、ぴたりと時間が止まったように感じられた。沖縄の生暖かい風も周りの雑踏も全てが止まり、わたしと猫さんだけがこの世界にいる。そんな錯覚に陥った。

  猫の黄色の目がわたしをじっと見つめる。わたしもその黄色の目を見返す。猫と見つめ合うなんてなんだか不思議な感じがするけれど、わたしは目をそらすことが出来ずに見つめ続けた。

  どれくらい、このような状態が続いたのかは正確には分からないけれどかなり長い時間だったように思えた。

  その時、

  キラリンと突然猫の目が光った。それから猫は、わたしから目をそらし歩き出した。

  その後ろ姿はわたしに、『着いてくるのよ』と言っているようだった。

「待って、猫ちゃん」

  わたしは、猫の後を追いかけた。あ、みどりちゃんと一瞬思ったけれど、まぁいいか。わたしのことを無視してお店なんて見ているみどりちゃんなんか知らない。

  わたしは、猫を追いかけた。
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