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オレンジ色の世界と恐怖
懐かしい思い出と無気味な何か
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「わっ、冷たいよ~」
「だから言ったじゃないか。秋だぞってな」
松木は、スカートの裾を持ち上げ川に入り冷たいよと騒いでる美奈をニヤリと見て言った。
「ふん、まあ冷たいけどね……わたし気にしないもんね。あっ! やっぱり冷たいよ」
美奈は頬をぷくりと膨らませながら大騒ぎだ。
「美奈ちゃんって高校の時からあんな感じだったね。あの無邪気さが羨ましかったな」
真夜がぽつりと呟いた。
「えっ! 真夜ちゃんってばわたしが羨ましかったの? うふふ、嬉しいな。わたしはクールビューティーな真夜ちゃんがかっこよくて羨ましかったな」
美奈は川に足をつけたまま目を細めて笑った。そういえば、美奈と真由香とわたしは真夜ちゃんかっこいいねと話をしていたことを思い出した。
この同窓会に来てから忘れていたことをいろいろ思い出す。過去に思いを馳せ美奈やみんなのことを眺めた。
キラキラと輝く思い出は美しく儚くそれから見たくない封印してしまいたい何かと出会う。
その一つがあのオレンジ色の提灯キーホルダーだと思う。わたしに何かを訴えているのかもしれない。
それから浴衣だ。浴衣といえば高校三年生の夏祭りだと思う。だって、紫陽花柄の浴衣や印象的なアザミ柄の浴衣はあの夏祭りの日に美奈と佐和が着ていたのだから。
それと一番不気味なのがあの夢だ。
包丁からぽたりぽたりと滴り落ちる血……。まさか、あの夢もただの夢ではないのだろうか。
なんだか胸がドキドキして苦しくなってきた。
ぽたりぽたりと滴り落ちる血。あの滴り落ちる血は誰の血だったのだろうか。わたしが刺した? そんなはずはない。だって、わたしは恨む人なんていない。
「思ったよりも川の水が冷たかったからもういいや」
「ほら見てみろよ。秋に川なんて入るからだよ」
松木がクスクスと笑った。
「ふん、今日はたまたま冷たく感じただけなんだもんね~だ」
美奈が唇を尖らせて言う。
みんなが「美奈ちゃんは強がっているね」とどっと笑う。まるで学生時代を再現したかのような楽しい会話とみんなの笑顔。
懐かしくて眩しくてずっと、この穏やかな光景の中にわたしはいたいなと思った。帰りたいだけど帰りたくない。なんとも言えない気持ちが入り混じる。
この気持ちの正体は果たして何なのだろうか。分からない。美奈はハンカチで濡れた足を拭いている。そんな美奈の姿をぼーっと眺めているとカバンの中のスマホがブルルと振動した。
わたしはスマホをカバンから取り出した。画面を見ると『高吉かな』と表示されていた。高校時代の同級生だ。
最近連絡を取り合っていなかったけれどどうしたのかなと思いながらわたしは電話に出た。
「もしもし」
『久しぶり~亜沙美ちゃん』とかなの明るい声が聞こえてきた。
「だから言ったじゃないか。秋だぞってな」
松木は、スカートの裾を持ち上げ川に入り冷たいよと騒いでる美奈をニヤリと見て言った。
「ふん、まあ冷たいけどね……わたし気にしないもんね。あっ! やっぱり冷たいよ」
美奈は頬をぷくりと膨らませながら大騒ぎだ。
「美奈ちゃんって高校の時からあんな感じだったね。あの無邪気さが羨ましかったな」
真夜がぽつりと呟いた。
「えっ! 真夜ちゃんってばわたしが羨ましかったの? うふふ、嬉しいな。わたしはクールビューティーな真夜ちゃんがかっこよくて羨ましかったな」
美奈は川に足をつけたまま目を細めて笑った。そういえば、美奈と真由香とわたしは真夜ちゃんかっこいいねと話をしていたことを思い出した。
この同窓会に来てから忘れていたことをいろいろ思い出す。過去に思いを馳せ美奈やみんなのことを眺めた。
キラキラと輝く思い出は美しく儚くそれから見たくない封印してしまいたい何かと出会う。
その一つがあのオレンジ色の提灯キーホルダーだと思う。わたしに何かを訴えているのかもしれない。
それから浴衣だ。浴衣といえば高校三年生の夏祭りだと思う。だって、紫陽花柄の浴衣や印象的なアザミ柄の浴衣はあの夏祭りの日に美奈と佐和が着ていたのだから。
それと一番不気味なのがあの夢だ。
包丁からぽたりぽたりと滴り落ちる血……。まさか、あの夢もただの夢ではないのだろうか。
なんだか胸がドキドキして苦しくなってきた。
ぽたりぽたりと滴り落ちる血。あの滴り落ちる血は誰の血だったのだろうか。わたしが刺した? そんなはずはない。だって、わたしは恨む人なんていない。
「思ったよりも川の水が冷たかったからもういいや」
「ほら見てみろよ。秋に川なんて入るからだよ」
松木がクスクスと笑った。
「ふん、今日はたまたま冷たく感じただけなんだもんね~だ」
美奈が唇を尖らせて言う。
みんなが「美奈ちゃんは強がっているね」とどっと笑う。まるで学生時代を再現したかのような楽しい会話とみんなの笑顔。
懐かしくて眩しくてずっと、この穏やかな光景の中にわたしはいたいなと思った。帰りたいだけど帰りたくない。なんとも言えない気持ちが入り混じる。
この気持ちの正体は果たして何なのだろうか。分からない。美奈はハンカチで濡れた足を拭いている。そんな美奈の姿をぼーっと眺めているとカバンの中のスマホがブルルと振動した。
わたしはスマホをカバンから取り出した。画面を見ると『高吉かな』と表示されていた。高校時代の同級生だ。
最近連絡を取り合っていなかったけれどどうしたのかなと思いながらわたしは電話に出た。
「もしもし」
『久しぶり~亜沙美ちゃん』とかなの明るい声が聞こえてきた。
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