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帰れない
誰かと話したい
しおりを挟むわたしは目を覚ました。体育座りで膝に顔を埋めたまま眠っていた。見たくない夢を見てしまった。眠っていても起きていてもこれでは疲れてしまう。
わたしは、ふぅーと溜め息をつき松木か真由香にあの夏祭りの日のことを聞いてみようかなと思った。
わたしは、立ち上がり部屋から出る。
廊下は薄暗くてちょっと気味が悪かった。美奈と多香子は部屋に戻っているのかな。
雨はまだ、ぽつぽつと降っているみたいだ。
「亜沙美じゃないか」と言いながら松木がこちらに向かって歩いてきた。
「松木、どこに行ってたの?」
「外の様子を見ていたよ。雨が小降りになってきたぞ」
「じゃあ、明日には帰れるね」
わたしはほっと胸を撫で下ろす。
「恐らく大丈夫だと思うよ」と答え部屋に戻ろうとする松木のシャツの裾をわたしはグイッと引っ張った。
「はぁ? 亜沙美! 何するんだよ。びっくりするじゃないか」と言いながら松木はこちらに振り向いた。
わたしは、松木のシャツの裾から手を離し、「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」と言って松木の顔をじっと見た。
「うん? なんだよ、真面目な顔をして」
首を傾げる松木にわたしは、「テラスで話さない」と言った。
「いいけど何か重要なことなのか?」
「うん、そうだよ」とわたしは答えた。
わたしと松木はテラスの木製のテーブルにペットボトルのミルクティーを置き椅子に腰を下ろした。
雨で濡れたウッドデッキに風で飛んできた葉っぱや花びらがたくさん落ちている。雨露に濡れた緑には幻想的な雰囲気が漂っていた。
「それで、亜沙美、重要な話ってなんだ?」
松木はペットボトルのミルクティーに口をつけ尋ねた。
「……うん、それなんだけどね」
わたしはペットボトルのミルクティーを一口飲み心を落ち着かせた。そして、ふぅーと息を吐き「あのね」と言った。
「高校三年生の夏休みにみんなで行った夏祭りのことなんだけどね。松木も夏祭りのこと覚えていると言ってたよね」
「ああ、覚えているよ」
「あの夏祭りで何かあったかな?」
「何か? いや、高校生活最後の楽しい夏祭りだったよな」
松木は懐かしそうに顔をほころばせた。
「特に変わったこととかなかったかな?」
「変わったこと? ん~何もなかったはずだぞ。あの夏祭りがどうかしたのか?」
「うん、多香子ちゃんが忘れていたことを思い出したって言うんだよ。わたしなんのことか分からなくて……松木は何か知っているかなと思って聞いたのよ」
松木は目を閉じた。あの夏祭りのことを思い出しているようだ。そして、「やっぱり特に変わったことなんかなかったぜ」と言った。松木のその目は嘘のない綺麗な目だった。
「……松木も何も覚えていないんだね」
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