オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしの笑顔と恐怖

なかじまあゆこ

文字の大きさ
上 下
51 / 87
帰れない

ポストカード

しおりを挟む
「あら、多香子ちゃん、手紙を書いているんだね」

  美奈は多香子の目の前にカモミールティーを置きながら言った。

「うん、自分宛にね。同窓会の良い思い出になるかなと思ってね。あ、カモミールティーありがとう」

「それっていいね。わたしも書きたいな」

  美奈はティーポットからわたしと自分のティーカップにカモミールティーを注ぎながら言った。

「じゃあ、美奈ちゃんにも一枚あげるよ。このポストカード三枚入りだから」

「わ~い、嬉しいな。じゃあ、頂戴」

  美奈は多香子から提灯柄のポストカードを受け取りご機嫌だ。美奈はオレンジ色の提灯キーホルダーが舞い戻りそして消えたのに気にならないんだ。

「亜沙美ちゃんはいらないよね?」

  多香子が提灯柄のポストカードをぴらりとわたしに見せた。

「う、うん、ごめんね。遠慮しとく」

「そうだよね。一応聞いただけだから気にしないでね」

  多香子はそう言ってカモミールティーに口をつけ「うん、美味しい」と微笑みを浮かべた。

  一方美奈は提灯柄のポストカードを眺めにっこりと笑っているのだった。笑っていられるなんて信じられない。


  多香子と美奈は楽しそうに自分宛の手紙を書いている。その姿を見ているとわたしも自分宛の手紙を書きたくなってくるけれど、提灯柄のポストカードを使って手紙なんて書けない。

  わたしは、ティーカップを口に運びカモミールティーを飲む。口の中に広がる甘酸っぱくてりんごのような香りにまたほっとする。

「わたしね、みんなとこの同窓会で会えて嬉しいなと思っているよ」

  美奈がペンを置き顔を上げわたしと多香子の顔を交互に見た。

「わたしもだよ」と多香子が艶やかな黒髪を触りながら言った。

「わたしも美奈ちゃんやみんなに会えたことは嬉しいよ」

  わたしもそう言ったことは嘘じゃない。美奈やみんなに会えたことは本当に嬉しいのだ。ただ、オレンジ色の提灯キーホルダーや浴衣などが気になるだけなのだ。

  オレンジ色の提灯キーホルダーがわたしを追いかけてこなければもっと楽しい同窓会になったはずなのに残念でならない。

  今度このメンバーで集まれるのはいつになるのか分からないのだから。多香子と美奈が手紙を書いてる提灯柄のポストカードが視界に入りちょっとゾワゾワする。

  でも、この時間はなんだかほっこりして大切な時間だと思った。そう大切で愛おしくてちょっと怖いそんな空間だった。


「ねえ、美奈ちゃん、この提灯のポストカードを見ていると高校時代の夏祭りを思い出さない?」

  多香子が顔を上げて美奈に言った。

「うん、思い出すよ。亜沙美ちゃん達と夏祭り一緒に行った時だよね。そしたら多香子ちゃん達とばったり会ったよね」

  美奈は遠い目をした。きっと、あの夏祭りを思い出しているのだろう。

「うん、確か美奈ちゃんは紫陽花柄の浴衣を着ていたよね」

  多香子が言った『紫陽花柄』にわたしは、ドキッとする。ここで紫陽花柄が出てくるなんて……。

「うん、そうだったね。え~っと多香子ちゃんはダリア柄だったかな?」

「うふふ、そうだよ。美奈ちゃん懐かしいね。亜沙美ちゃんは椿柄の浴衣だったよね?」

  と言って多香子がわたしに視線を向けた。

「えっ、あ、うん。わたしは椿柄だったよ。よく覚えているね」

「うん、あの夏祭りは心に強く残っているから」

  多香子はそう言って艶やかな黒髪を触った。あの夏祭りの日、多香子はお団子ヘアですっきりしていたなと思った。

「まだ、十年も経ってないけど懐かしいね。そうだ、佐和ちゃんはインパクトのあるアザミ柄の浴衣だったよね」 と美奈が言った。

  わたしは、ゾクッとした。どうしてアザミ柄が出てくるのよ。

「うん、佐和ちゃんはアザミ柄だったね。可愛い花だけどトゲが痛そうだなって思ったことを覚えているよ」

  そう言って多香子は妖艶な笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

The Last Night

泉 沙羅
ホラー
モントリオールの夜に生きる孤独な少女と、美しい吸血鬼の物語。 15歳の少女・サマンサは、家庭にも学校にも居場所を持てず、ただひとり孤独を抱えて生きていた。 そんな彼女が出会ったのは、金髪碧眼の美少年・ネル。 彼はどこか時代錯誤な振る舞いをしながらも、サマンサに優しく接し、二人は次第に心を通わせていく。 交換日記を交わしながら、ネルはサマンサの苦しみを知り、サマンサはネルの秘密に気づいていく。 しかし、ネルには決して覆せない宿命があった。 吸血鬼は、恋をすると、その者の血でしか生きられなくなる――。 この恋は、救いか、それとも破滅か。 美しくも切ない、吸血鬼と少女のラブストーリー。 ※以前"Let Me In"として公開した作品を大幅リニューアルしたものです。 ※「吸血鬼は恋をするとその者の血液でしか生きられなくなる」という設定はX(旧Twitter)アカウント、「創作のネタ提供(雑学多め)さん@sousakubott」からお借りしました。 ※AI(chatgpt)アシストあり

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

あの子が追いかけてくる

なかじまあゆこ
ホラー
雪降る洋館に閉じ込められた!! 幼い日にしたことがわたしを追いかけてくる。そんな夢を見る未央。 ある日、古本屋で買った本を捲っていると 『退屈しているあなたへ』『人生の息抜きを』一人一泊五千円で雪降る洋館に宿泊できますと書かれたチラシが挟まっていた。 そのチラシを見た未央と偶然再会した中学時代の同級生京香は雪降る洋館へ行くことにした。 大雪が降り帰れなくなる。雪降る洋館に閉じ込められるなんて思っていなかった未央は果たして……。 ホラー&ミステリになります。悪意、妬み、嫉妬などをホラーという形で書いてみました。最後まで読んで頂くとそうだったんだと思って頂けるかもしれません。 2018年エブリスタ優秀作品です。

視える僕らのルームシェア

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

絶海の孤島! 猿の群れに遺体を食べさせる葬儀島【猿噛み島】

spell breaker!
ホラー
交野 直哉(かたの なおや)の恋人、咲希(さき)の父親が不慮の事故死を遂げた。 急きょ、彼女の故郷である鹿児島のトカラ列島のひとつ、『悉平島(しっぺいとう)』に二人してかけつけることになった。 実は悉平島での葬送儀礼は、特殊な自然葬がおこなわれているのだという。 その方法とは、悉平島から沖合3キロのところに浮かぶ無人島『猿噛み島(さるがみじま)』に遺体を運び、そこで野ざらしにし、驚くべきことに島に棲息するニホンザルの群れに食べさせるという野蛮なやり方なのだ。ちょうどチベットの鳥葬の猿版といったところだ。 島で咲希の父親の遺体を食べさせ、事の成り行きを見守る交野。あまりの凄惨な現場に言葉を失う。 やがて猿噛み島にはニホンザル以外のモノが住んでいることに気がつく。 日をあらため再度、島に上陸し、猿葬を取り仕切る職人、平泉(ひらいずみ)に真相を聞き出すため迫った。 いったい島にどんな秘密を隠しているのかと――。 猿噛み島は恐るべきタブーを隠した場所だったのだ。

処理中です...