カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ

文字の大きさ
上 下
65 / 75

過去の君が歩いた大阪

しおりを挟む

  たこ焼きタッコ~ちゃんでたこ焼きをたらふく食べて満足したわたし達は店を出る。

  そして、わたしは鞄からカフェノートを取り出した。開いたページに祐介君からの返事が来ていた。

『早乙女ちゃん、たこ焼き美味しかったよ。これこそ大阪のたこ焼きって感じだったよ。たこ焼きの外はふわふわで中身はとろ~りとしていてほっぺたが落っこちそうになりました。

  俺達は今から、通天閣に行きます。ビリケンさんが楽しみだよ。祐介』と書かれていた。

「祐介君達は通天閣に行くんだって!  わたし達はどうする?」

「わたしは行きたいよ~ビリケンさんに会いたいな」

  亜子ちゃんが目をキラキラ輝かせながら言った。

「亜子ちゃんはさっき新大阪駅に着いた時にビリケンさん会いたいって言ってたもんね。他のみんなも通天閣でいいかな?」

「うん、俺もビリケンさんを見てみたいからいいよ」と奈央が言った。

  久美佐ちゃんと青橋君も通天閣にビリケンさんを見に行くことに賛成してくれた。

「みんなありがとう~では、次の目的地は通天閣だよ~」

  わたし達は駅に向かって歩き出した。


  わたし達はJR新今宮駅で電車から降りて通天閣出口からビリケンさんの居る通天閣へと向かった。

「早乙女ちゃん、楽しみだね~ビリケンさんを撫でて御利益を得たいな~」

「うん、亜子ちゃんビリケンさんの足の裏を撫でると御利益があるらしいよね~」

  なんて話をしながらひたすらまっすぐ歩いていると大阪のシンボルである通天閣が見えてきた。

「わ~い、通天閣だよ~」

  わたしは、通天閣に向かって走り出した。

「あ、早乙女ちゃん待ってよ~」

「お~い、姉ちゃん走るなよ」

「ちょっと早乙女さん待ってくださいよ~」、「早乙女さん急がなくても通天閣は逃げたりしませんよ」と言って久美佐ちゃんと青橋君もわたしを追いかけてくる。

  だって、通天閣が見えてくると祐介君もあの通天閣に向かっているのかなと思うと走らずにいられなかった。

  わたしは通天閣を見上げた。このタワーにビリケンさんがいるんだねと思い頬を緩めていたのだけど、待ち時間五十分と書かれた看板が視界に入り目を見開いた。

「待ち時間五十分ってどういうことなの~」

  わたしは思わず叫んでしまった。

「え?  五十分待ちなの!」

  わたしに追いついた亜子ちゃんも大きな声を出した。

「うわ~マジで五十分待ちかよ」

「うん、そうみたいだね……仕方がない、並ぼうよ」

  わたしはずらっと並んでいる列に向かって歩き出した。

「姉ちゃん並ぶの面倒臭くないか?」

  奈央がぶつくさと文句を言う。

「奈央もビリケンさんの足の裏を触りたいんでしょ?  だったら文句言わないで並ぶんだよ。そうだ、チケットを買わなきゃ」

  わたし達はチケットを購入し長蛇の列に並んだ。

  でも、ビリケンさんに会えると思うと苦にならないのだ。奈央は「ビリケンさんだったらいろんな店の前とかにも居たよね」と言ってぶつくさ文句を言っているけれど気にしないのだ。

  それにカフェノートをそっと開くと祐介君も長蛇の列に並んでいるのだから。

  わたしはカフェノートをこっそり開きふふふっと笑った。

『早乙女ちゃん、俺はビリケンさんがいる通天閣展望台に登るため長蛇の列に並んでいるところです。早乙女ちゃんはどの辺りを観光しているのかな?  祐介』と書かれている。

  わたしは、ボールペンを握り返事を書いた。

『祐介君、わたしもビリケンさんがいる通天閣展望台に登るため長蛇の列に並んでいるところだよ。そうそうわたしも祐介君と同じルートで観光をしています。早くビリケンさんに会いたいな。早乙女』と書いた。

  待ち時間が長くても祐介君とこうしてカフェノートを通してやり取りをしていると楽しくて時間なんてあっという間に経ちそうだ。

  わたしはカフェノートをぎゅっと抱きしめ笑みを浮かべた。

  すると、誰かがわたしの肩をトントンと叩いた。振り返ると奈央が眉間に皺を寄せて立っていた。

「あ、奈央!」

「あ、奈央じゃないよ。まったく何が早くビリケンさんに会いたいなだよ」

「ちょっと、奈央ってばわたしのカフェノートを勝手に読んだんだね!」


  奈央と言い合いをしていると、「早乙女ちゃん、列が動き出したよ」と亜子ちゃんが呆れたような声で言った。

「あ、やっと動き出したね」

  わたしはカフェノートを鞄に詰め込みエレベーターに向かって歩き出した。さあ、いよいよビリケンさんに会えるぞと思うとわくわくしてきた。

  そして、わたし達旅行研究部同好会のメンバーはエレベーターに乗り込み五階の展望台へと向かった。

  五階の展望台に到着したのでわたし達はエレベーターから降りた。すると、目の前に二千二十二年時点で日本で一番高いビルであるあべのハルカスが目に入った。

「わっ!  あべのハルカスだよね」

「うん、あれはあべのハルカスだよ~」

  わたしと亜子ちゃんは通天閣の展望台から見える景色を眺めわいわいと言い合った。奈央や久美佐ちゃんにそれから青橋君も「大阪らしい景色だね」と言い合っている。

「亜子ちゃん、大阪城も見えるね」

「うん、わたし達は大阪に来たんだって実感が湧くよね」

  しばらくの間わたし達は展望台から見える景色を眺めた。そして、黄金に輝く幸運の神様ビリケンさんの前に行く。

「うふふ、ビリケンさんだよ~足の裏を撫でないと」

  わたしはそう言いながらゆっくり手を伸ばしビリケンさんの足の裏に触れ撫でた。

   そして、わたしは心の中でお父さんに会えますようにそれと祐介君とずっとこの先もカフェノートを通して会話ができますようにと祈った。

  ビリケンさんのにまっと笑ったように見える愛嬌のあるその顔がうんうんと頷いているように見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青春の初期衝動

微熱の初期衝動
青春
青い春の初期症状について、書き起こしていきます。 少しでも貴方の心を動かせることを祈って。

「史上まれにみる美少女の日常」

綾羽 ミカ
青春
鹿取莉菜子17歳 まさに絵にかいたような美少女、街を歩けば一日に20人以上ナンパやスカウトに声を掛けられる少女。家は団地暮らしで母子家庭の生活保護一歩手前という貧乏。性格は非常に悪く、ひがみっぽく、ねたみやすく過激だが、そんなことは一切表に出しません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

僕は 彼女の彼氏のはずなんだ

すんのはじめ
青春
昔、つぶれていった父のレストランを復活させるために その娘は 僕等4人の仲好しグループは同じ小学校を出て、中学校も同じで、地域では有名な進学高校を目指していた。中でも、中道美鈴には特別な想いがあったが、中学を卒業する時、彼女の消息が突然消えてしまった。僕は、彼女のことを忘れることが出来なくて、大学3年になって、ようやく探し出せた。それからの彼女は、高校進学を犠牲にしてまでも、昔、つぶされた様な形になった父のレストランを復活させるため、その思いを秘め、色々と奮闘してゆく

CHERRY GAME

星海はるか
青春
誘拐されたボーイフレンドを救出するため少女はゲームに立ち向かう

夢で満ちたら

ちはやれいめい
青春
蛇場見《じゃばみ》ミチルには夢がなかった。 親に言われるまま指定された高校を出て、親が言う大学を出た。 新卒で入社した会社で心身を壊し退社。 引きこもりになっていたミチルに、叔母がお願いをしてくる。 ミチルの従妹・ユメの家庭教師をしてほしい。 ユメは明るく元気が取り柄だけど、勉強が苦手な子。 社会復帰するためのリハビリに、期間限定でユメの家庭教師を引き受ける。 そして夏の間、人々との出会いと交流を通じて、ミチルとユメは自分のなりたいものを考えていく。

ただの黒歴史

鹿又杏奈\( ᐛ )/
青春
青春ジャンルではありますが、書き手の青春的な意味で高校時代に書いたポエムとかお話とかそういったものを成仏させようかと思ってます。 授業中に書いてたヤツなので紙媒体から打ち込むのに時間がかかるとは思いますが、暇であったら覗いて見て下さい。 偶に現在のも混ぜときます笑

処理中です...