56 / 75
祐介Side5
しおりを挟む俺は武也の腕をこっそりつねった。
「な、何するんだよ! 痛いな」
武也は顔を歪め俺を見る。
「お前が余計なことを言うからだよ」と俺は武也の顔をじっと見て小声で言ったのだけど武也は、「はぁ?」と首を傾げている。
そんな俺達を馬渡さんと星宮さんはクスクスと笑いながら見ている。笑われてしまったじゃないか。
この後、俺は紫色のボストンバッグを買い武也は紺色のボストンバッグを買った。馬渡さん達もスーツケースを買ったようだ。
そして、俺達と馬渡さん達は一緒に昼食を食べることになり駅ビルのファストフード店でハンバーガーとポテトを食べた。
馬渡さんとお昼を食べる日が来るなんてと俺は人生の巡り合いに驚いた。だがしかし、早乙女ちゃんとカフェノートを通してやり取りをしている方がもっと不思議な巡り合いだけれど。
馬渡さんもそして、星宮さんもハンバーガーにかぶりつきころころ笑う性格も可愛らしい女の子だなと思った。
この日は想像以上に楽しい一日を過ごせたのだった。人生は本当に不思議である。
家に帰るとお母さんが「祐介なんかいいことがあったの?」と聞いてきた。
俺は、「別に何もないよ。格好いいボストンバッグが買えただけだよ」と答えたのだけど嬉しさが顔に出ているのかなと思い焦ってしまった。
自室に戻り荷物を置き鞄からカフェノートを取り出した。
早乙女ちゃんから手紙が来ていないかなと思いながらカフェノートを開いた。すると、早乙女ちゃんの細かくて可愛らしい文字で書かれた手紙が来ていた。
『今日は旅行に必要な物を買いに出かけました。紫色のボストンバッグが可愛らしくて買ったよ。このボストンバッグにお菓子や水着など詰め込むんだと思うと嬉しくなるよ。早乙女』と書かれていた。
俺は「紫色のボストンバッグだって」と思わず叫んでしまった。
だって、俺と偶然お揃いではないか。
俺はボールペンを握りカフェノートに返事を書いた。
『早乙女ちゃん、こんばんは。俺も旅行用品を買いに出かけました。それで、早乙女ちゃんの文章を読んでびっくりしたよ。だって、俺も紫色のボストンバッグを買ったんだよ。偶然同じ色のボストンバッグを買うなんてね。祐介』
俺は興奮しながらペンを走らせた。早乙女ちゃんと同じ日に旅行用品を買いに出かけ同じ色のボストンバッグを買ったなんてなんたる偶然なんだと思った。
早乙女ちゃんから返事はすぐに来た。
『えっ!? 祐介君も紫色のボストンバッグを買ったの? ちょっとびっくりしてしまいました。因みにわたしが買ったボストンバッグの紫色は濃いめの紫色だよ。祐介君は?』
俺はペンを握り『俺が買ったボストンバッグも濃いめの紫色だよ。祐介』と書いた。
『そうなんだね。祐介君と同じ色のボストンバッグだなんてなんだか不思議な偶然だね。ちょっと嬉しいな。早乙女』と書かれていた。
『俺も嬉しいよ。旅行が楽しみだね。祐介』
『うん、めちゃくちゃ楽しみだよ。高校生活最後の旅行であり不思議なカフェノートを通して祐介君と過去と未来で繋がっているんだもんね。カフェノートにもたくさん旅行日記を書くね。早乙女』
早乙女ちゃんの細くて可愛らしい浮かび上がってきた文字を俺はじっと眺めた。
もう見慣れたこの文字を俺は愛おしく感じた。ずっと、この先もこのカフェノートでやり取りを続けたいなと思った。
「俺もカフェノートにたくさん旅行日記を書くよ。楽しみだね。祐介」と書いた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
君のいちばんになれない私は
松藤かるり
ライト文芸
旧題:好きなひとは ちがうひとの 生きる希望
病と闘う青春物語があったとして。でも主役じゃない。傍観者。脇役。
好きな人が他の人の生きる希望になった時、それが儚い青春物語だったなら。脇役の恋は泡になって消えるしかない。
嘉川千歳は、普通の家族に生まれ、普通の家に育ち、学校や周囲の環境に問題なく育った平凡女子。そんな千歳の唯一普通ではない部分、それは小さい頃結婚を約束した幼馴染がいることだった。
約束相手である幼馴染こと鹿島拓海は島が誇る野球少年。甲子園の夢を叶えるために本州の高校に進学することが決まり、千歳との約束を確かめて島を出ていく。
しかし甲子園出場の夢を叶えて島に帰ってきた拓海の隣には――他の女の子。恋人と紹介するその女の子は、重い病と闘うことに疲れ、生きることを諦めていた。
小さな島で起こる、儚い青春物語。
病と闘うお話で、生きているのは主役たちだけじゃない。脇役だって葛藤するし恋もする。
傷つき傷つけられた先の未来とは。
・一日3回更新(9時、15時、21時)
・5月14日21時更新分で完結予定
****
登場人物
・嘉川千歳(かがわ ちとせ)
本作主人公。美岸利島コンビニでバイト中。実家は美容室。
・鹿島拓海(かしま たくみ)
千歳の幼馴染。美岸利島のヒーロー。野球の才能を伸ばし、島外の高校からスカウトを受けた。
・鹿島大海(かしま ひろみ)
拓海の弟。千歳に懐いている。
・宇都木 華(うづき はな)
ある事情から拓海と共に美岸利島にやってきた。病と闘うことに疲れた彼女の願いは。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
君と命の呼吸
碧野葉菜
青春
ほっこりじんわり大賞にて、奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪
肺に重大な疾患を抱える高校二年生の吉川陽波(ひなみ)は、療養のため自然溢れる空気の美しい島を訪れる。 過保護なほど陽波の側から離れないいとこの理人と医師の姉、涼風に見守られながら生活する中、陽波は一つ年下で漁師の貝塚海斗(うみと)に出会う。 海に憧れを持つ陽波は、自身の病を隠し、海斗に泳ぎを教えてほしいとお願いするが——。 普通の女の子が普通の男の子に恋をし、上手に息ができるようになる、そんなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる