カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ

文字の大きさ
上 下
55 / 75

祐介Side4

しおりを挟む

  俺は馬渡さんをじっと見てしまった。小学生の頃何度か同じクラスになったことがある。

  馬渡さんは小学生の頃から目が大きくて鼻筋が通った美人だった。

  俺は馬渡さんが読書クラブに入ったので俺も入ったけれど読書に興味なんて全くなくて本を読むふりをして、ぼーっと読書をする馬渡さんを眺めていた。

  そんな馬渡さんは中学受験をして私立の中高一貫の女子校へ行ってしまいそれっきり疎遠になった。

  懐かしいなと思いながら思わず高校生になった馬渡さんを眺めてしまった。今も変わらずと言うか美しさにいっそう磨きがかかっていた。

「おい、祐介」

  俺の肩を武也がポンと叩いた。

「わっ、なんだよ!  びっくりするな」

「びっくりするなじゃないよ。祐介ってば馬渡さんに見惚れているんだからな」

「そう言う武也こそ馬渡さんに見惚れていたんじゃないの?」

「あはは、バレたか。だって、彼女めちゃくちゃ綺麗だからさ」

  そう言って武也は舌を出して笑った。

「綺麗だよね。武也ってば馬渡さんの真似をして小学生の頃読書クラブに入ったもんな。それで、本を読むふりをして馬渡さんをチラチラ眺めていたよね」

「……それは祐介お前じゃないか。って仲間だよな」

  なんて言い合いながら俺達は笑った。

 その頃からコイツと俺は友達だった。



  馬渡さんはスーツケースのコーナーを友達らしい同じセーラー服の制服に身を包んだ女子高生と話をしながら眺めていた。卒業旅行にでも行くのだろうか?

「おい、祐介、まだ馬渡さんを見ているのかい?」

「あ、えっ!  ボストンバッグを買うんだったよね」

  俺はそう言いながらボストンバッグが並べられている棚に向き直った。

「祐介ってまさか馬渡さんのことが気になるとか?」

「はぁ!  どうして」

  俺はちょっとびっくりして声を上げた。だって、馬渡さんのことなんて今日見かけるまで忘れていたのだから。

  それに今は早乙女ちゃんが……って早乙女ちゃんは未来の女の子だった関係ないやと俺はブンブン手を振った。

「なあ、祐介、手をブンブン振り回して何しているんだ?」

  武也が呆れた声で聞いてきた。

「あ、いや別になんでもないよ……」

  俺は慌てて答え目の前に並べられている紫色のボストンバッグを手に取り「このボストンバッグ格好いいよな」と言って笑ってみせた。

  その時。

「ねえ、祐介君と武也君じゃない?」と懐かしい声が聞こえてきた。その声に振り返ると馬渡さんがニコニコと笑顔を浮かべこちらに向かってきたではないか。

「あ、馬渡さんこんにちは」と俺と武也は声を合わせて言った。

  まさか馬渡さんに話しかけられるとは思ってもいなかったので、俺の胸はドキドキしてきた。それに俺達のことを覚えていてくれていたなんてちょっと嬉しかった。

  隣に立っている武也に視線を向けると嬉しそうに鼻の下を伸ばしているではないか。

「久しぶりだね。二人とも旅行に行くの?」

  馬渡さんはニコニコと笑いながら聞いてきた。

「あ、うん、そうだよ」

 俺は答えながら誰と旅行に行くのか聞かれたら嫌だなと思った。

「わたしは、友達の千加子ちかこちゃんと卒業旅行に行くのよ。あ、千加子ちゃんはこの子、星宮ほしみや千加子ちゃんよ」

  そう言って馬渡さんは隣にいるツインテールの女の子を俺達に紹介した。その女の子も目が大きくて鼻筋の通った美少女だった。

  俺と武也は「どうもこんにちは」と言って星宮さんに挨拶をした。

「ねえ、祐介君と武也君も二人で卒業旅行に行くの?」

  俺は家族旅行だと言いたくないので武也と卒業旅行に行くと言って誤魔化そうとした。

それなのに武也の奴はバカ正直に、「違うよ俺と祐介は家族旅行だよ」と答えた。

「……あ、そうなのね」

  馬渡さんは笑顔ではあるけれど心の中でなんと思っているのかなと俺は気になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君のいちばんになれない私は

松藤かるり
ライト文芸
旧題:好きなひとは ちがうひとの 生きる希望 病と闘う青春物語があったとして。でも主役じゃない。傍観者。脇役。 好きな人が他の人の生きる希望になった時、それが儚い青春物語だったなら。脇役の恋は泡になって消えるしかない。 嘉川千歳は、普通の家族に生まれ、普通の家に育ち、学校や周囲の環境に問題なく育った平凡女子。そんな千歳の唯一普通ではない部分、それは小さい頃結婚を約束した幼馴染がいることだった。 約束相手である幼馴染こと鹿島拓海は島が誇る野球少年。甲子園の夢を叶えるために本州の高校に進学することが決まり、千歳との約束を確かめて島を出ていく。 しかし甲子園出場の夢を叶えて島に帰ってきた拓海の隣には――他の女の子。恋人と紹介するその女の子は、重い病と闘うことに疲れ、生きることを諦めていた。 小さな島で起こる、儚い青春物語。 病と闘うお話で、生きているのは主役たちだけじゃない。脇役だって葛藤するし恋もする。 傷つき傷つけられた先の未来とは。 ・一日3回更新(9時、15時、21時) ・5月14日21時更新分で完結予定 **** 登場人物 ・嘉川千歳(かがわ ちとせ)  本作主人公。美岸利島コンビニでバイト中。実家は美容室。 ・鹿島拓海(かしま たくみ)  千歳の幼馴染。美岸利島のヒーロー。野球の才能を伸ばし、島外の高校からスカウトを受けた。 ・鹿島大海(かしま ひろみ)  拓海の弟。千歳に懐いている。 ・宇都木 華(うづき はな)  ある事情から拓海と共に美岸利島にやってきた。病と闘うことに疲れた彼女の願いは。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

君と命の呼吸

碧野葉菜
青春
ほっこりじんわり大賞にて、奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪ 肺に重大な疾患を抱える高校二年生の吉川陽波(ひなみ)は、療養のため自然溢れる空気の美しい島を訪れる。 過保護なほど陽波の側から離れないいとこの理人と医師の姉、涼風に見守られながら生活する中、陽波は一つ年下で漁師の貝塚海斗(うみと)に出会う。 海に憧れを持つ陽波は、自身の病を隠し、海斗に泳ぎを教えてほしいとお願いするが——。 普通の女の子が普通の男の子に恋をし、上手に息ができるようになる、そんなお話。

処理中です...