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思い出は
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「奈央、関西旅行の行き先が決まったよ~」
わたしは、カフェノートを胸に抱え廊下をバタバタと走り奈央の部屋のドアをバーンと開けた。
「わっ! 姉ちゃんノックしないで入ってくるなよ~」
「ねえ、聞いてよ。琵琶湖に行くことになったんだよ」
わたしは、じゃーんと奈央にカフェノートを開いて見せた。
「あのね……聞いてないのは姉ちゃんでしょ。俺の部屋に勝手に入って来ないでよ」
「ねえ、奈央、琵琶湖って言えば懐かしいよね」
「だから、俺の部屋に勝手に入ってくるなよ」
奈央が大声を上げた。
「うん? 奈央ってばどうして叫んでいるの? 顔が真っ赤になって小猿みたいだよ」
わたしは真っ赤に顔を上気させ小猿みたいな顔になっている奈央の顔を見て首を傾げた。
「早乙女~ふざけるなよ」
「早乙女って呼ぶな! お姉ちゃんって呼びなさい」
「早乙女は早乙女だ~! 人の部屋に入って来る時はノックをしろよ」
「もううるさいね」
わたしは溜め息をつき一度ドアの外に出て開いているドアをコンコンとノックしてから再び部屋に入った。
「姉ちゃん……ふざけるなよ!」
「はぁ? ふざけていないよ。ノックしろと言うからノックしてあげたんだよ」
「……あ~もういいよ。で、何の用?」
「もう聞いていなかったの? 琵琶湖に行くことになったんだよ。お父さんと旅行に行ったことがある琵琶湖だよ」
わたしは興奮して言った。
「えっ? 琵琶湖! 決まったって祐介君から返事が来たの?」
「そうだよ。さっきから見せているじゃない」
わたしは、『関西旅行は滋賀県の琵琶湖と大阪と奈良に行くことになりました』と書かれたページを奈央の顔に近づけた。
「あ、本当だ。返事が来たんだ」
奈央は目を丸くしている。
「うん、返事が来たんだよ。びっくりした?」
「うん、祐介君のことは信じることにしたけど……この文字を見るとやっぱりびっくりするよ」
奈央はカフェノートに書かれている祐介君の豪快で大きくて綺麗な文字をじっと見て答えた。
「わたしも最初はびっくりしたよ」
「そっか、琵琶湖懐かしいね」
奈央は遠い目になる。懐かしいお父さんとの思い出の中にいるそんな目だ。
わたしはしばらく黙り琵琶湖と思い出せそうでいてはっきり思い出せないお父さんの顔を思い浮かべた。
「あの日は楽しかったね」
「うん、楽しかったよ」
奈央はぽつりと呟きそれから、「なんか思い出は綺麗だけどその先が霞んで何も見えないね」と言った。
「霞んで見える?」
「うん、だって、その思い出の先の生活が見えてこないと言うのか……何て言うのかな」
奈央はそう言って唇を噛んだ。
「確かにそうだよね……」
お父さんと琵琶湖に旅行に行った後も何度か会ったかと思うけれど、それからしばらくしてから会えなくなったのか記憶が定かではない。
あの日の思い出はキラキラと輝いているけれどその思い出も消えそうになってくる。細部まで覚えていないし断片的になってくる。
「なんて暗くなっていても仕方がないね。姉ちゃんと祐介君との時を超えた空の下の旅を俺は応援するよ」
奈央はそう言って笑った。
「ちょっと、奈央! その祐介君との時を超えた空の下の旅を応援って何よ」
「だって、そうでしょ。二十二年の時を超えた空の下の旅ってなんだかロマンがあるじゃん」
奈央はわたしの顔を見上げふわりと微笑みを浮かべた。
「えっと、祐介君との時を超えた旅を楽しみながらお父さんのことも思い出そうね」
これはきっと、わたし達と祐介君とお父さんとの旅なのだ。
わたしは、カフェノートを胸に抱え廊下をバタバタと走り奈央の部屋のドアをバーンと開けた。
「わっ! 姉ちゃんノックしないで入ってくるなよ~」
「ねえ、聞いてよ。琵琶湖に行くことになったんだよ」
わたしは、じゃーんと奈央にカフェノートを開いて見せた。
「あのね……聞いてないのは姉ちゃんでしょ。俺の部屋に勝手に入って来ないでよ」
「ねえ、奈央、琵琶湖って言えば懐かしいよね」
「だから、俺の部屋に勝手に入ってくるなよ」
奈央が大声を上げた。
「うん? 奈央ってばどうして叫んでいるの? 顔が真っ赤になって小猿みたいだよ」
わたしは真っ赤に顔を上気させ小猿みたいな顔になっている奈央の顔を見て首を傾げた。
「早乙女~ふざけるなよ」
「早乙女って呼ぶな! お姉ちゃんって呼びなさい」
「早乙女は早乙女だ~! 人の部屋に入って来る時はノックをしろよ」
「もううるさいね」
わたしは溜め息をつき一度ドアの外に出て開いているドアをコンコンとノックしてから再び部屋に入った。
「姉ちゃん……ふざけるなよ!」
「はぁ? ふざけていないよ。ノックしろと言うからノックしてあげたんだよ」
「……あ~もういいよ。で、何の用?」
「もう聞いていなかったの? 琵琶湖に行くことになったんだよ。お父さんと旅行に行ったことがある琵琶湖だよ」
わたしは興奮して言った。
「えっ? 琵琶湖! 決まったって祐介君から返事が来たの?」
「そうだよ。さっきから見せているじゃない」
わたしは、『関西旅行は滋賀県の琵琶湖と大阪と奈良に行くことになりました』と書かれたページを奈央の顔に近づけた。
「あ、本当だ。返事が来たんだ」
奈央は目を丸くしている。
「うん、返事が来たんだよ。びっくりした?」
「うん、祐介君のことは信じることにしたけど……この文字を見るとやっぱりびっくりするよ」
奈央はカフェノートに書かれている祐介君の豪快で大きくて綺麗な文字をじっと見て答えた。
「わたしも最初はびっくりしたよ」
「そっか、琵琶湖懐かしいね」
奈央は遠い目になる。懐かしいお父さんとの思い出の中にいるそんな目だ。
わたしはしばらく黙り琵琶湖と思い出せそうでいてはっきり思い出せないお父さんの顔を思い浮かべた。
「あの日は楽しかったね」
「うん、楽しかったよ」
奈央はぽつりと呟きそれから、「なんか思い出は綺麗だけどその先が霞んで何も見えないね」と言った。
「霞んで見える?」
「うん、だって、その思い出の先の生活が見えてこないと言うのか……何て言うのかな」
奈央はそう言って唇を噛んだ。
「確かにそうだよね……」
お父さんと琵琶湖に旅行に行った後も何度か会ったかと思うけれど、それからしばらくしてから会えなくなったのか記憶が定かではない。
あの日の思い出はキラキラと輝いているけれどその思い出も消えそうになってくる。細部まで覚えていないし断片的になってくる。
「なんて暗くなっていても仕方がないね。姉ちゃんと祐介君との時を超えた空の下の旅を俺は応援するよ」
奈央はそう言って笑った。
「ちょっと、奈央! その祐介君との時を超えた空の下の旅を応援って何よ」
「だって、そうでしょ。二十二年の時を超えた空の下の旅ってなんだかロマンがあるじゃん」
奈央はわたしの顔を見上げふわりと微笑みを浮かべた。
「えっと、祐介君との時を超えた旅を楽しみながらお父さんのことも思い出そうね」
これはきっと、わたし達と祐介君とお父さんとの旅なのだ。
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