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過去の君と会えるのはこのカフェノートだけ
しおりを挟む自室に戻りノートを取り出そうと思いわたしは鞄を開けた。すると、鞄の中に大学ノートが入っていることに気がついた。
「あ、このノートは!」
びっくりして手がガタガタと震えた。
わたしは、その大学ノートを取り出した。やっぱり思った通りだった。
そうなのだ。年季が入っていて表紙に小さな文字で『2000年』と書かれている染みのあるカフェノートだったのだ。
ドーナツ屋のアルバイトに急いで行こうと思ったわたしは無意識のうちにカフェノートを鞄に入れていたようだ。
わたしは、椅子に座り何か書かれているかなとドキドキしながらカフェノートをゆっくり開いた。
豪快で大きくて綺麗な文字でノートに書かれていた。この文字は祐介君の文字だとすぐにわかるようになった。
ーーー
早乙女ちゃんは今頃ドーナツ屋さんのアルバイトを頑張っている頃かな?
俺は今、二杯目のココアを飲んで寛いでいます。ドーナツも食べたくなってきたな。なんてね。
このノートを通して見知らぬ女の子と会話をしているなんてなんだか不思議なことだなと思います。
しかも未来の世界に生きている早乙女ちゃんと話しているなんて考えると不思議を通り越して見えない力が俺達を出会わせてくれたのかな? なんて考えてしまいます。
豪快で大きくて綺麗な文字で書かれている祐介君の文章を読んでいるとなぜだか愛おしくて切ない気持ちになった。
それはきっと、お父さんと同じで手を伸ばしても届かない世界に存在しているからなのかもしれない。
でも、祐介君とはこうしてカフェノートを通じて話をすることができるだけお父さんより近い存在なのかもなと思った。
西暦二千年に高校生だった祐介君の方がお父さんよりもわたしの近くにいるなんて複雑な気持ちになる。
そんなことを考えながらカフェノートの続きを読んだ。
西暦二千二十二年の俺はどんな大人になっているのかな? 今の高校生の俺からすると二十二年後は遥か彼方の世界に感じるけれど、あっという間なのかもしれないね。
俺は今、カフェの二階のカウンター席に座り窓の外を眺めています。
早乙女ちゃんが二十二年後の世界でこの窓の外を歩きドーナツ屋のバイトに向かったんだなと思うと不思議な気持ちでいっぱいになります。
わたしは、この文章を読み二十二年前の祐介君が二階のカウンター席から手を振っていたんだなと思った。
そして、カフェノートには続きが書いてありわたしは、それを読んだ。
なんだかこのカフェがいつもより居心地が良くて三杯目のココアを飲んでいるよ。
さて、三時間も粘ったからそろそろ帰ろうかな。早乙女ちゃんアルバイトを頑張ってね。それと、いつかお父さんに会えるといいね。また、カフェノートで会おうね。祐介。
と書かれていた。
わたしは、ノートに書かれている文字をじっと眺め「うん、カフェノートで会おうね」と呟いた。
そして、ペンを握り新しいページに『カフェノートを家に持って帰ってきてしまったドジっ子な早乙女です』と書いた。
それから、
ドーナツ屋のアルバイトは楽しかったです。チラシの配布もしたし販売員の仕事も頑張ったよ。ドーナツもたくさん食べることができたので満足です。
祐介君はココアを三杯飲んだのね。でも、どうして三杯ともココア何だろう? ちょっと笑ってしまいました。
わたしは、頬を緩めながらペンを走らせた。楽しくてペンが止まらない。
二十二年後の祐介君はあのカフェのことを覚えているのかな。忘れないでいてくれていると嬉しいな。
不思議なとっても不思議な祐介君との出会いにわたしは、感謝しています。それからお父さんのこともありがとう。いつか会えるといいな。では、祐介君またね。早乙女。
と書きわたしは、ペンを置いた。
明日もきっといいことがあるはずだ。わたしはカフェノートを閉じ大きく伸びをした。
西暦二千年の世界で生きている祐介君と西暦二千二十二年のわたしが会える場所はこのカフェノートだけなのだ。
わたしは、ノートをぎゅっと抱きしめた。
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