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おばあちゃんのご飯と家族
しおりを挟む家に帰ると夕飯の匂いがふわふわと漂っていた。
「早乙女ちゃん、奈央君、おかえりなさい」
台所からおばあちゃんの声とぐつぐつと煮物を煮込む音。味噌とみりんのいい香りがふわふわと漂っている。今日の夕飯はサバの味噌煮込みのようだ。
「おばあちゃん、ただいま~」とわたしと奈央は挨拶をしながら台所を覗く。
「お母さんは?」
「今日は仕事だから帰りが遅いらしいよ」
「そっか、おばあちゃん今日の夕飯はサバの味噌煮込みかな?」
「うん、そうだよ。おばあちゃんのサバの味噌込みは美味しいわよ」
おばあちゃんはそういいながらしゃもじを手に持ち振り返った。
「おばあちゃんの料理は美味しいもんね」
「わたしの趣味は料理だからね」
おばあちゃんはにっこりと笑った。
「おばあちゃん、サバの味噌煮込みもいいけどハンバーグとかコロッケも食べたいよ」
奈央が冷蔵庫からオレンジジュースの紙パックを取り出しグラスに注ぎながら言った。
「また、今度作ってあげるわね」
「おばあちゃんってばそんなこと言いながら三日間連続煮物だったりするからな」
奈央はオレンジジュースをゴクゴクと飲み干した。
「あら、そうだったかしら」
おばあちゃんは口元に手を当てて笑った。
老人仲間と出かけていない日はおばあちゃんが夕飯を作ってくれている。煮物が多いけれどカレーライスやお好み焼きやたまにハンバーグやコロッケの日もある。
わたしは、おばあちゃんの作ってくれる和食も洋食もどちらも好きだけど、奈央は洋食が食べたいらしい。
制服から部屋着に着替えて席に着く。
今日の夕飯は、サバの味噌煮込み、ほうれん草の胡麻和え、具沢山のお味噌汁にそれから納豆だった。
サバの味噌煮込みは味付けがちょっと濃いめでご飯が進む。
「おばあちゃん、おかわり~」
わたしは、お茶碗を差し出した。
「早乙女ちゃん、三杯目ね」
おばあちゃんは嬉しそうに笑う。
「おばあちゃん、俺もおかわり~」
奈央もお茶碗を差し出す。
「あらあら、奈央君は四杯目ね」
おばあちゃんはにこにこと微笑みを浮かべお茶碗にご飯をよそった。
「奈央ってばハンバーグやコロッケが食べたいなんて言いながら食欲旺盛だね」
「ハンバーグやコロッケの方が好きだけどサバの味噌煮込みも好きだもん」
奈央はそう答え、おばあちゃんが目の前に置いたご飯をぱくぱく食べた。
わたしも奈央に負けずにご飯をぱくぱく食べた。うん、やっぱりサバの味噌煮込みはご飯と良く合い美味しいよ。
おばあちゃんはわたし達がたくさんご飯を食べると頬を緩めにこにこと笑顔を浮かべている。
わたしは、おばあちゃんのほんわかとした優しい笑顔が大好きだ。
おばあちゃんがいてお母さんも仕事でいない日も多いけれど、それでもこの家にいるし、憎たらしくて生意気な弟の奈央もいるのでわたしは幸せかなと思う。
そう思うのだけど、お父さんがいないことがわたしの心に影を落とす。
いつも心のどこかでお父さんはどうしているのかなと考えてしまうわたしがいる。この場面でお父さんがいてくれたらどれだけ幸せかなと思ってしまうのだった。
お父さんに会いたくてでも会えなくてなんとも言えない気持ちになる。
そんなことを考えながら納豆にキムチを加えマヨネーズをかけお箸でぐるぐるかき混ぜた。キムチにマヨネーズをかけるとキムチの辛さがまろやかになりごはんが進む。
気がつくとわたしは、ごはんを四杯も食べていた。隣に座る奈央に視線を向けるとごはんをぱくぱく食べていた。
奈央もお父さんに会いたいと思っているのかな? きっと、心のどこかで会いたいと思っているのではないかなと思う。
わたしより幼かった奈央はお父さんがいなくなってどんな気持ちだったのだろうか。
「姉ちゃん、どうしたの? 俺の顔に何かついてる?」
奈央はわたしの視線に気づきこちらを見て首を傾げた。
「あ、ううん、奈央のご飯美味しそうだなって思って……」
「はぁ? 姉ちゃんも同じご飯食べているじゃん」
「あはは、そうだね」
「変な姉ちゃ~ん!」
奈央は大袈裟に溜め息をつきご飯を口に運んだ。
わたしもあははと笑い納豆をご飯に載せて口に運んだ。
おばあちゃんはそんなわたし達をにこにこと笑いながら眺めていた。
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