12 / 75
カフェノートの向こうから
しおりを挟むわたしは、今日も木の温もりを感じる喫茶店の二階のカウンター席にアイスティーとケーキを注文して座っている。
そして、テーブルの上に置かれているカフェノートを手に取った。
わたしは、祐介君から返事が来ているかなとドキドキしながらノートの表紙をじっと眺めそれから勇気を出して、えいやとノートのページを捲った。
すると、そこには……。
『早乙女ちゃんは半額のケーキを食べたかな? ケーキかいいな。俺もケーキ好きなんだよね。モンブランやチョコレートケーキなんて最高ですよ。じゃあ、またね。祐介』と書かれていた。
わたしは、祐介君が書いてくれた輪郭がぼやけていて少し薄くなっている文字をじっと眺め微笑みを浮かべた。
そして、ペン執り、
『昨日は半額ケーキを買いました。いちごをたっぷり使ったショートケーキとレモンケーキを食べました。もうほっぺたが落っこちてしまうかもなんて思うほど美味しかったよ。あ、それと今、このノートにペンを走らせながらモンブランを食べています』
わたしは、そう書きながらモンブランにフォークを入れ口に運んだ。
マロンクリームが甘くて濃厚で生クリームもたっぷりでたまらなく美味しい。
わたしはモンブランに舌鼓を打ちながら祐介君から返事がくるかなとノートを眺めた。
だけど、返事はこない。スマホを鞄から取り出し時間を見る。わたしがノートにペンを走らせてから恐らく二十分ほど経過しただろう。
そうだよね。過去の世界にいる祐介君が未来のわたしと同じ時間にこのカフェに来ていることそれこそ奇跡なんだよね。
仕方がない、今日返事がなくても次回の楽しみが増えるからいいやと、わたしは前向きに考えてみることにした。
アイスティーに口をつけるとレモンの香りが口の中にふわりと広がった。
わたしは、ペンをぎゅっと握り日記でも書こうかなと思った。その前に祐介君が書いた読み飛ばした文章を探して読むことにした。
カフェノートをわたしはぺらぺらとめくった。過去の記憶がノートに書かれていていろいろな人達の思いが溢れていた。
このカフェノートの中には人生の記憶がたくさん残されている。そう思うと知らない誰かと文章の中で出会えたような気がして不思議な気持ちになった。
○月○日
家族で旅行に行くことになった。なのでこのカフェにはしばらく来られない。高校生にもなって親と旅行だなんてちょっと恥ずかしい。友達に笑われたら嫌だな。それに友達と遊ぶ方が楽しい。
お父さんが家族旅行は思い出になるし、美味しいものを食わせてやるぞと言うので我慢して行くことにした。祐介
わたしは、文章を読み首を傾げた。祐介君は家族旅行がどうして恥ずかしいのかなと思った。わたしだったら喜んで行くのにな。男の子と女の子は考え方が違うのだろうか?
それに、お父さんと旅行に行けるなんて羨ましくて仕方がない。わたしがお父さんと旅行に行ったのはいつだったかなと思い出してみる。
そういえば、小学生の頃にお父さんと琵琶湖旅行に行った。その頃、お父さんとお母さんはすでに離婚をしていたけれど、わたしと奈央はよくお父さんに会っていた。
そんなある日、お父さんが旅行に行くぞと言った。わたしと奈央は嬉しくて飛び上がって喜んだことを今でも覚えている。
琵琶湖で泳いだわたしと奈央は真っ黒に日焼けした。楽しかった思い出がよみがえってくるけれど、あれから一度もお父さんと旅行に行っていないことを思い出した。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
君のいちばんになれない私は
松藤かるり
ライト文芸
旧題:好きなひとは ちがうひとの 生きる希望
病と闘う青春物語があったとして。でも主役じゃない。傍観者。脇役。
好きな人が他の人の生きる希望になった時、それが儚い青春物語だったなら。脇役の恋は泡になって消えるしかない。
嘉川千歳は、普通の家族に生まれ、普通の家に育ち、学校や周囲の環境に問題なく育った平凡女子。そんな千歳の唯一普通ではない部分、それは小さい頃結婚を約束した幼馴染がいることだった。
約束相手である幼馴染こと鹿島拓海は島が誇る野球少年。甲子園の夢を叶えるために本州の高校に進学することが決まり、千歳との約束を確かめて島を出ていく。
しかし甲子園出場の夢を叶えて島に帰ってきた拓海の隣には――他の女の子。恋人と紹介するその女の子は、重い病と闘うことに疲れ、生きることを諦めていた。
小さな島で起こる、儚い青春物語。
病と闘うお話で、生きているのは主役たちだけじゃない。脇役だって葛藤するし恋もする。
傷つき傷つけられた先の未来とは。
・一日3回更新(9時、15時、21時)
・5月14日21時更新分で完結予定
****
登場人物
・嘉川千歳(かがわ ちとせ)
本作主人公。美岸利島コンビニでバイト中。実家は美容室。
・鹿島拓海(かしま たくみ)
千歳の幼馴染。美岸利島のヒーロー。野球の才能を伸ばし、島外の高校からスカウトを受けた。
・鹿島大海(かしま ひろみ)
拓海の弟。千歳に懐いている。
・宇都木 華(うづき はな)
ある事情から拓海と共に美岸利島にやってきた。病と闘うことに疲れた彼女の願いは。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる