カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ

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3早乙女の学校

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  考えてみると、高校生でいられる期間はわずか三年間しかない。最後の高校生活を後悔のないように過ごしたいなと思う。

  新入生としてこの緑沢みどりさわ高等学校に入学してきた時は三年間は長いなと思った。けれど、あっという間に三年生になってしまった。

  中学の三年間よりも高校の三年間の方が早く感じるし、それに制服を着て学校に通えるのも最後になるのでとても貴重な時間だと思う。

  そんなことを考えながらホワイトボードから奈央達に視線を移すとまだまだ高校生でいられて羨ましいなと思った。

  なんて珍しく真面目なことを考えてしまった。わたしは、後悔したくないという思いが強いのだ。それは幼い日の思い出にも繋がっているのかもしれない。



   わたしがマーカーをぎゅっと握りしめていろいろ考えていると、亜子ちゃんが「は~い!」と手を挙げた。

「あ、亜子ちゃん何ですか?」

「旅行に行くなら沖縄がいいかも~」

「あ、沖縄。それはいいかもね」

  わたしは、マーカーの蓋を開けホワイトボードに『沖縄』と書いた。

「姉ちゃんに亜子さん、部費を使い果たしてお金なんてないのに沖縄なんて行けるわけないよ」

「奈央、手を挙げてから意見を言いなさい」

   奈央は、「面倒くさいな」と呟きながら手を挙げた。

「はい、奈央。何でしょうか?」

「姉ちゃんと亜子さんが、たこ焼きや饅頭にチョコレートなどを食べまくったので部費はありませ~ん」

「ありゃ、そうだったね。困ったね」

  わたしは、顎に手を当ててうーんと唸った。

「は~い!」と今度は久美佐ちゃんが手を挙げた。

「久美佐ちゃんどうぞ」

「もし旅行に行くとしたらもう少し近場がいいですよね」

「うん、そうかもね」

  わたしは、ホワイトボードに『もう少し近場』と書いた。

「同好会から部活動に昇格したら部費もたくさんもらえるのにね」

  亜子ちゃんがホワイトボードをじっと眺めながら言った。

「そうだよね。わたしと亜子ちゃんが一生懸命校門の前で新入生勧誘のチラシを配ったのに奈央と青橋君しか入部しないんだもんね」

  わたしはふぅーと溜め息をついた。


「わたしと早乙女ちゃん新入生の勧誘めちゃくちゃ頑張ったよね」

「うん、お揃いのミニスカートを穿いて笑顔を浮かべて頑張ったのにどうして誰も入部しないのよ」

  わたしはぷくぷくと頬を膨らませた。

「わたしと早乙女ちゃん可愛かったよね」

「うん、可愛かったはずだよ。いつもよりスカート丈も短くして早乙女スマイルを浮かべて『旅行研究部同好会』で~す!  ってチラシを配りまくったのにおかしいよ」

  わたしと亜子ちゃんが顔を見合わせぶつぶつ文句を言っていると奈央が、

「確かにミニスカートは可愛かったかもしれないよ。でも、新入生を睨み付けてめちゃくちゃ怖かったんだけど……」と言った。

「はぁ?  早乙女スマイルが怖かった?」

「うん、じ~っと新入生を睨んでいたじゃないか」

「え?  睨んでいないよ。笑顔を浮かべていたんだけど……」

「いいや、あれは睨んでいたよ。だよな、青橋」

「……あ、えっと、うん、先輩達は校門の前でチラシを片手に新入生を睨み付けていたかもしれないね」

  青橋君は言いにくそうな顔をしながらもハッキリと言う。

「……わたしの早乙女スマイルが……」

「そ、そんな亜子スマイルが……」

  わたしと亜子ちゃんは、「そんなバカな~!!」と叫んだ。

「取り敢えずバイトでもして部費の足しにするしかないかもね」

  叫んでいるわたし達の肩にぽんぽんと手を置き冷静な表情の奈央が大人に見えた。けれど、やっぱり憎たらしいではないか。

「……旅行研究部同好会だから仕方がないね」

  わたしは、悔しいけれどマーカーの蓋を開けてホワイトボードに、『取り敢えずバイト』と書いた。

  こんな感じで本日の旅行同好会の活動は終了した。


「俺と青橋は寄り道して帰るからじゃあね」

  奈央と青橋君は校門の前で手を振り反対方向に歩き出した。

「亜子ちゃん、久美佐ちゃん帰ろうか」

  わたし達三人は肩を並べて歩いた。オレンジ色に染まった空がとても綺麗で美しくて今、この瞬間を生きているんだなと感じた。

  そして、電車に乗り各々の最寄り駅で降りた。

  今日はあのカフェに寄ってから帰ろうかな。
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