陽のあたる場所【加筆訂正中】

たまゆらりん

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エピローグ3 ~柚希 side~

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  あれから、10年の月日が経った。



  9月の中旬。
  仲秋の爽やかな風とやわらかい日差しが、何処か遠くへと誘(いざな)うような……
  そんな、穏やかな行楽日和だった。



  卒業後、何度かみんなと集まったけど。
  誰かしか都合が合わず、全員が集まる事は中々なかった。

  誰一人欠ける事なく集まるのは、本当に久しぶりだ。



「懐かしいな……Cosy Room Cafe……」

「今は征爾と成都の二人が、店を引き継いでるみたいだよ。養子縁組も、もう済んでるって」



  昔と変わらないアイアンの門を開け、中へ入る。
  地元の超人気店を、繁忙期に丸一日貸し切りに出来るのも、親友の強みだ。



「はるはる!ゆずゆず!おめでとぉ!それと……ココア、初めましてぇ!めっちゃ、可愛いねっ」



  俺と陽人が飼ってる、愛犬のトイプードルのココアに成都は目を輝かせる。
  Cosy Room Cafeは、テラス席なら犬の同伴が可能だ。犬用のメニューもある。
  暫く来ないうちに、庭の一部にドッグランまで出来ていた。俺と陽人が犬を飼ってるって聞いて、今日の為に作ってくれたみたいだ。



「なつママ……誰ぇ?」



  成都の背後にひっついてる、成都そっくりの小さな女の子が、顔をひょっこり出して尋ねてきた。



「えっ!?成都の子供?」



  驚愕し、声が裏返ってしまう。



「こら、琉瑠(るる)。お父さん達の所にいなさい」

「はーい、せいじぃパパ」



  もっと小さい成都そっくりな赤ちゃんを抱きかかえながら、征爾がやって来た。



「えっ……?誰の子……?」



  陽人が目を丸くして尋ねた。



「僕の従姉妹の子供だよぉ。ちなみに旦那さんは、せいじぃの弟なんだぁ」

「成都そっくりで驚いたよ。成都の子かと思った……」

「よく、言われる。ママって呼ぶしねぇ。本当、可愛いくて仕方ない。何でも買ってあげちゃうし、かなりの姪バカだよぉ」

「みんな主役が集まるのを、待っていたんだぞ。ほら、急いで」

「わかってるって」

「待たせて、悪ぃな……」



  案内されるまま、用意されたテラス席へ足早に向かう。



「おめでとうございます。ハル先輩、ユズ先輩」

「これェ、稀瑠空と俺と仔猫達で選んだやつだからァ」



  益々美しくなった稀瑠空は、今や世界的なモデルだ。
  そして、相変わらずチャラい絢斗だけど、稀瑠空をモデルに描いた超写実の絵画で賞をもらい、世界的なアーティストになってる。
  二人は今、東京の超高級ペントハウスに住んでいて、仔猫達三人もそこに一緒に住んでいた。
  絢斗と稀瑠空はパートナーシップを申請済みで、仔猫達は内縁の妻みたいな感じだ。日本の憲法では許されてないけど、一夫多妻制を貫き通してる。



「きるあ、俺と付き合ってよォ」

「じゃあ、俺は、なっちゃん」

「俺は、ゆずきちゃんにするゥ」

「えっ!?チビ絢斗が三人?」

「あー、俺と仔猫達の、子供ォ」

「中身までケンティーに似てるから、マジ困る」

「稀瑠空大好きぃ、可愛い子大好きぃだからねー」

「この間、保育園で二股してて、その子の親からクレームきたしぃ」

「ははっ。絢斗と稀瑠空の所も賑やかだね」

「賑やかすぎて、困るくらい……絢斗とチビ達で毎日俺の取り合いするから、本当、疲れる……」



  呆れたように頭を押さえる稀瑠空の左薬指には、プラチナのリングが輝いていた。



「おめでとう…ございます……陽人先輩、柚希先輩……」



  大夢は失声症を克服して、喋れるようになっていた。それでも、喋るのは苦手みたいで、声が小さくてたどたどしい喋り方だ。
  今は売れっ子のゲームプログラマーをしながら、家業の農業を継いでいる。



「初めまして。大夢のパートナーの花守詩音(はなもり しおん)って言います。目が弱くて、サングラスかけてるんだ。折角のお祝いの席なのに、無礼な感じですみませんっ」



  申し訳なさそうに軽く頭を下げると、詩音はサングラスを外す。



「瞳の色、綺麗だね。詩音くんて、妖精みたい」

「よく言われる」



  詩音はアルビノで、白い髪に透けるような白い肌、グレーに紫を帯びた瞳で美しい顔立ちだ。
  屋外で目が辛いのか、すぐにサングラスをかけ直す。



「大夢も素敵な伴侶が出来て、良かったな」

「うん……」

「俺こそ、こんな可愛い妻と一緒になれて、果報者です」

「そ、そ、そんな事、言わないでっ……みんなの前で……恥ずかしいよ……」



  幸せそうな甘々な二人に、俺達も甘い気持ちになった。



「遅れて、悪ぃ!」



  遅刻してきた友紀が、申し訳なさそうに小走りでやって来た。



「柚希、陽人、おめでとう。これ、家族みんなで選んだんだぜ」

「ありがとう。足、大分動くようになったな。本当、良かった……」

「あぁ、後遺症もほとんどないしな」



  友紀から、プレゼントの入った紙袋を受け取る。



「来たのは、友紀だけか?」

「バタバタしてて悪ぃな、征爾。嫁さんと……」



  ギャーとか、キャーとかいう……
  怪獣のような甲高い声が幾つも近付き、耳をつんざきビリビリする。



「大きい声は、ダメだよぉ。静かにして」

「はーい、ママ」

「柚希!俺の嫁さんの桃葉(ももは)と子供達だ」

「可愛い奥さんだな!子沢山で、友紀幸せそうじゃん」

「どーも。柚希くん、初めましてぇ。旦那がいつも、お世話になってます」

「あれェ?愛華じゃん。お腹デカいなァ。何人目ェ?」

「愛華って……源氏名はやめてよー、ケンティー。お腹の子は7人目……?ん~、双子だから7人目と8人目かなぁ……」

「もう……お兄ちゃんちの子供、やんちゃすぎだよ……」

「友紀くんちの子、パワフルだわ……」

「みんな、静かにしなさい。ここは、お祝いの席だ」



  子沢山の友紀一家の子守りに、莉奈ちゃんと彩ちゃんと近衛がかり出されていた。
  走り回るヤンチャな子供達に、三人ともクタクタだ。






「えー、では俺が代表で。陽人、柚希、結婚おめでとう!」

「「「おめでとう!!!」」」

「そして、遅くなったが、陽人。白金市の市議への当選、おめでとう。念願の夢が叶ったな」

「ありがとう」

「はるはるすごいよぉ。市議になってすぐに、マニフェストの『パートナーシップ制度』を導入したんだものねぇ」

「市内で一番最初に、二人が申請したんだよね。市議が市民に、一番を譲らないなんて……なかなか、ゲスいよね。そういうハル先輩のゲスさ、好きだけど」

「だって、俺と柚希が、一番先に幸せになりたかったからさ」

「本当、陽人は負けず嫌いだから……何と戦ってるんだよって、たまに思う」

「昔から、一番が好きなんだよ」

「みんな遠慮せずに、料理どんどん食べてねぇ。まだまだ他にもあるし、デザートもあるからねぇ。ドリンクも飲みたいのあったら、言ってよぉ」






  賑やかで、楽しくて……

  そんな時間は、あっという間に過ぎてしまった。

  あまりに楽しすぎて、年末年始辺りにまた集まろうって話になった。

  みんな揃って顔を出せる日が、今から楽しみで待ち遠しかった。


 
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