陽のあたる場所【加筆訂正中】

たまゆらりん

文字の大きさ
上 下
126 / 134

121 ~柚希 side~

しおりを挟む
  陽人がいる……
  陽人と手を繋いでる……
  夢じゃない……
  本物の陽人だ……



  こんな風に出来る日が来るなんて、もう二度とないと思っていた。

  一生、柊という檻の中で生きていくんだろうなって……

  そう、思っていた。



「陽人……」



  今まで呼びたくても、呼べなかった名前を口にした。



「どうしたの?柚希」



  聞きたかった陽人の声が、返ってくる。
  たったそれだけなのに、再び涙が溢れてきた。



「今は走らなきゃ。後でいっぱい、泣いていいから。その間ずっと、抱きしめていてあげる」



  胸が詰まって、頷く事しか出来ない。



  走って、走って
  自由に向かって
  陽のあたる場所へーーー



  とにかく、走り続けなきゃ……









  キキッーーー!



  激しいブレーキ音が、住宅街に木霊した。
  荒々しいエンジン音とクラクションを鳴らし、車が近付いてくる。



「柊!」

「思ったより、早かったかな……かなり、車飛ばして来たね。スマホ以外で柚希にGPSの発信器付けてるのは、予測してたから……ここへ来るのは、想定済みだよ」



  車窓に光が反射して顔は見えないけど、相当激怒してるのが荒い運転から伝わる。
  走らなきゃいけないのに、恐怖で足に力が入らなくなる。

  グイッと陽人が手を引くと、支えるみたいに肩を抱き寄せてきた。



「俺が柚希を、守るから。大丈夫だよ」



  目を見つめ、自信たっぷりに微笑む陽人の顔を見てると、不思議と力が湧き上がってきた。
  縺れる足を叱咤するように、太腿を叩き、力一杯地面を蹴った。



  いくら俊足でも、流石に車のスピードには叶わない。
  車は俺達を軽々と追い越し、狭い道を塞ぐようにして止まった。

  車から、柊が鬼のような形相で降りてきた。



「陽人、テメェふざけんなよ!俺のモン、取るんじゃねぇよ!」

「柚希はあなたのモノじゃない。それに、柚希の気持ちは、あなたにはない。いい加減、諦めて下さい」

「うるせーよ!んな事、わかってる!俺はただ、柚希が側にいてくれるだけで、それだけで十分なんだよ!」



  柊がポケットから、ナイフを取り出した。
  鋭利な刃(やいば)は、太陽の光が反射してギラリと光ってる。



「……そんな事、やめて下さい」

「柚希を奪われるくらいなら…………何だってしてやるよ!」



  柊がナイフを振り上げ、陽人に向かって走ってきた。



「柚希、ごめん!」



  陽人は俺が巻き込まれないように、遠い場所めがけて思いっきり突き飛ばした。



「陽人ーーー!」



  叫びながら勢いよく、転がるようにアスファルトへ倒れ込む。



  凶器を持ち、殺意に満ちた目をした柊。

  俺を庇うようにして構え、迎え撃つ陽人。



  目の前で、信じられない

  “惨劇”が

  起きようとしているーーー






「やめてーーー!!!」








 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

真面目な部下に開発されました

佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。 ※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。 救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。 日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。 ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...