陽のあたる場所【加筆訂正中】

たまゆらりん

文字の大きさ
上 下
8 / 134

6

しおりを挟む
  その日も5月だというのに、茹だるように暑い日だった。



  中間テストが終わり、下校中の面々はホッとした面持ちをしている。

  俺は金銭面で働きながら通える、定時制か通信制の高校が希望だった。
  全日制の学校へ受験を控えている、同級生達よりは幾分気持ちに余裕があった。

  それでもテスト期間中独特の、周りのピリピリした空気や緊張感が伝わると、流石に気が重くなる。
  終わればそんな空気から解放され、気持ちは軽くなった。



  期間中は陽人と会えなくなる事が、一番寂しかった。

  進学校へ行く陽人の邪魔にはなりたくない。
  だから、テストが終わるのをモヤモヤしながら待っていた。



  スマホには陽人から



  《部活があるから、終わったら夜遊びに行くね》



  とメッセージが来ていた。
  俺は弾む気持ちで、猫のスタンプのOKを送った。









  家に着くと、汗まみれの体が気持ち悪くて、クーラーを全開にしてからシャワーを浴びる。
  Tシャツとハーフパンツを着て、ペットのお茶を飲みながらクーラーで涼む。



  ーーーピンポーンーーー



  玄関のチャイムが鳴った。

  美空がネットで何か買ったのかと思い、チェーンをしたままドアを開ける。



「こんにちは、美空。突然ごめん。この間店で話した昼職の事なんだけど。先方から資料を預かって説明したくてさ。他にも面接希望者がいるから、急ぎで連絡欲しいみたい。美空電話出ないし、今日休みって聞いてたから家まで来ちゃった」



  あぁ、この人も俺と美空間違えてる。
  よくある事だから、特に気にならなかった。

  美空は中学時代の大親友が出産するから、店を臨時休業にして朝からそっちへ行ってしまった。
  帰りは何時になるか解らないって言っていた。
  病院だから電話にも出られないのだろう。



「あの、母なら急用で出掛けてるので家にいません」

「えっ?美空の子供?女の子?」

「男です。何かあれば伝言しますが」

「あー、直接話して決めたかったから…まぁ、今回は残念ってことで。また良い仕事見つけたら連絡するって伝えといて」



  美空は俺が大学や専門学校へ行けるように、給与の良い昼職を探していたのは知ってる。

  進学しないで就職するって言ってるのに、柚希は頑張れば頭良いんだからって譲らない。

  自分の店との掛け持ちだし、中卒で変な噂のある美空に見つかる昼職はなかなか無かった。
  今は理解のある知人のコンビニで働いている。



  ドアの向こうにいる男は茶髪で、二十歳前後と若い感じだ。
  賢そうな感じがするから、大学生のように見える。
  資料が入ってるのか、肩から大きな黒いバッグを掛けていた。
  店って言ってたから、多分スナックの客だろう。

  柔らかく丁寧な口調と、整った顔に薄く笑みを浮かべているけれど、切れ長の眼光が鋭くて少し怖い。



  ーー信用できる…のか……?



  折角見つかった昼職だし、給与や条件が良いなら、逃してしまうのはもったいない話だ。
  話だけ聞いて良い仕事なら、美空に急いで連絡すれば間に合うかもしれない。俺からの電話なら間違いなく出るだろうし。



「その仕事の話、俺が聞いても大丈夫ですか?もし母に連絡ついたら、まだ間に合います?」



  男は俺をじっと見て少し考えた後、「間に合うよ」と答えた。



  チェーンを外し、リビングへ招き入れる。



  グラスに氷を入れアイスコーヒーを出した。
  余程喉が乾いていたのか、男はガムシロやコーヒーフレッシュは入れずブラックで、ストローを使わずにゴクゴクと旨そうに飲み干した。
  テーブルに資料を広げ、会社の説明をし始める。男は子供の俺にもわかるように、丁寧に噛み砕いて優しく説明をしてくれた。
  それでも、難しい話で解らない部分もあったけど、悪くない話だと思った。



「今日特に暑いね。すげー喉乾いちゃった。アイスコーヒーおかわりもらっても良い?図々しい事言ってごめんね」



  男は柔らかく微笑み、申し訳なさそうにグラスを差し出してきた。



「今、持ってきます」



  俺は受け取ったグラスを持って立ち上がり、キッチンへ向かおうとした。



  その時ーーー
 


  いきなり、背後から男が近付いてきた。

  バチッという大きなスパーク音と共に、

  ビリビリとした体験した事のない、

  強烈な痛みが走る。






  目の前が真っ暗になったーーー





しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

真面目な部下に開発されました

佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。 ※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。 救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。 日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。 ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

処理中です...