鏡の中の娼年 ～不幸で性格の悪い俺が、スパダリの親友に溺愛されるようになるまでの話～

柊のオンナ ③

  柊は他にも用事があるらしく、「終わったら、また来る」と言って、慌ただしく店を後にした。



「チッ！」



  柊がいなくなった途端、抑えきれなくなった苛立ちで、思いっきり舌打ちをして、チビを睨み付けた。



「こんな不細工の、どこがいいんだよ。柊のバカ……」



  チビはカチンときたのか、怒りを露にした。



「…………何か、俺に言いたい事あるんだろ？言えよ」  

「一言じゃ言えねぇくらい、おまえに言いたい事は、山ほどあるわ。
まぁ、一つだけ言えるのは、おまえなんかより、俺の方が柊を愛してるし、柊と釣り合うのは俺だから。
ビッチのおまえなんかとは違って、柊がいなかったら、俺は生きていけないんだよ」



  突っかかってきたチビに、言い返してやった。
  俺の柊への熱い想いを聞いて、唖然とした顔をしている。



「ユキちゃん、指名入ってるから……」とスタッフが慌ただしくチビに声をかける。



「へぇー、こんなに早く完売したんだ。大人気だね。
あんまり無理しないでね、新人さん。多分、俺の太客も予約してると思う。
これ、ユキちゃん専用のバッグ。中身はローションとかうがい薬のお仕事セットだから、忘れないで。オモチャやコンドームも、入ってるよ。
わからない事は、スタッフが教えてくれるから聞いてみて」



  道具の入ったバッグを、ニッコリと微笑みながらチビへ渡した。



「……ありがとう」

「頑張ってね。いってらっしゃい」

「いってきます」



  チビは慌てながら、スタッフの後を付いていく。
  その様子を、目で追いかけながら、睨み付けた。



「…………大概の客は我慢出来る俺が、NGにした糞客中の糞客だから……
せいぜい可愛がってもらえよ、糞ビッチ」






  柊に愛されてるのに……
  浮気ばかりしてんだろ、あのチビ……
  ふざけんなよ……！
  おまえみたいな奴、痛い目に遭えばいいんだ！



  俺は、柊しか見てないのに……
  柊だけなのに……



  なんで、俺じゃないの……？

  俺じゃ、ダメなの？



  柊…………