鏡の中の娼年 ～不幸で性格の悪い俺が、スパダリの親友に溺愛されるようになるまでの話～

柊のオンナ ②

「おはよう。みんな、お疲れ」



  柊が挨拶しながら、キャストの待機部屋に入って来た。

  相変わらずカッコいい柊。
  久々に見たその姿から、目を離す事が出来ない。

  後ろからオドオドしながら、チビがついてきた。
  想像してたより不細工で、余計に腹が立った。



「柊！」



  柊に駆け寄りながら、思いっきりぶつかってやった。
  チビはムッとしている。



「この子は、No.1の美玲。源氏名は“レイ”。こっちは柚希(ゆずき)。源氏名は“ユキ”、な。柚希は、自分の源氏名ちゃんと覚えておいて」

「えっ？あっ……わかった……」



  ーーはぁ？ぜってー自分の源氏名、覚えてねぇだろ、コイツ……



  お仕置きの為とはいえ、超高級店にこんな見窄らしい素人、相応しくないと思った。



「客に本名言っちゃ、ダメだよ、ユキちゃん。そうだよねー、柊？ふふふ」



  今にも怒りで発狂しそうなのを抑えながら、言葉を吐き出した。



「そうだな。客に何聞かれても、本当の事言うなよ。ストーカーになる奴とか、危ない奴とかいるから」



  ーーストーカー！？こんなブスが、狙われる訳ないじゃん！



「ユキちゃん、すごく躱すの下手そうだものね。大丈夫かな？
客に色々聞かれて、何て答えていいかわからない時は、目を見つめて笑顔で誤魔化して」



  ーーこいつ、会話できんの？コミュ症っぽいし。接客とか、無理そう。こんなクソガキ、いらねーよ……



「わからない事は、スタッフやここにいる子達に何でも聞いて。美玲はこの業界長いし、色々教えてくれると思うから。
美玲、よろしくな」



  切れ長の涼しげな双眸が、俺に向けられる。
  その端正な顔を見ていると、胸がギュッと締め付けられた。



  久々だな……
  こんな近くで、柊を見られるなんて……
  やっぱ、カッコいい……

  前は、この瞳を俺が独占してたのに……



「うん、ちゃんと面倒みる。だから、今度俺とデートしてね」



  こんな奴、忘れて……
  もう一度、俺を見て……



「わかった」



  柊とデート出来る……
  ずっと、逢う事すら出来なかったから……
  夢みたいで、涙が込み上げてきそうになる。



  柊とデート出来る事が、嬉しくて。
  そして何よりも、やっと柊に逢えた事が、心の底から嬉しくて……

  飛び付くみたいに、柊に抱きついた。



  その時、
  視界の中に、不細工チビが入ってきた。
  柊への愛しい気持ちと相まって、歪んだどす黒い感情が溢れ出す。






  おまえなんか、いなければ…………
  俺は柊の側に、ずっといられたんだよ……

  …………消えろよ……クソビッチ……！