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~エピローグ~
~カノンの道~
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カノンと美桜、二人が倒れた翌日。
ここはアルストロメリア王国、フローライト家のカノンの部屋。
「う…うーん?」
ぼんやりとした意識の中、カノンは目をこすりながら何度も瞬きをし、意識を覚醒させるのに努めた。
そんなカノンの様子を見て慌てた様子で駆け寄り、声を掛けてきたのは姉のサントリナだった。
「美桜ちゃん!!大丈夫?!昨日、急に部屋で倒れたと聞いて心配したのよ!!」
「……サントリナ…お姉様?」
「……お姉…様…という事は…カノン?」
「……はい…。」
カノンはまだぼんやりとする中、ゆっくりと体を起こし、サントリナの問いに答えた。
カノンの返事を聞いたサントリナは驚いた表情をしたが、次第に涙目になり、体を起こしたカノンを抱きしめた。
「カノン…目が覚めて…よかった…。おかえりなさい。」
「お姉様…ただいま戻りました。」
「……サントリナだけずるい…。僕にも抱き着かせてくれないか…。」
「……お兄様……今日だけは…わたくしからお願い申し上げますわ。」
サントリナとカノンの様子を見ていた兄、フロックスは少しだけ拗ねた表情を見せたが、カノンの言葉にぱぁっと明るい表情になりサントリナと場所を変わり、カノンを抱きしめた。
「おかえり…僕の…麗しく、美しい妹よ…。本当に…目が覚めてよかった。」
「次…私も…よいか…フロックス…。」
「父様は…まだダメ…。」
「…そ、そんなぁ…。」
フロックスはカノンを抱きしめたまま離れず、父、オリヴァーの言葉でさえも離れようとしない。
そんなフロックスの体をカノンから引きはがしたのは、サントリナで、オリヴァーの背中を軽く後押しした。
背中を押されたオリヴァーは、おずおずと、カノンを抱きしめた。
「……あぁ…カノン…。
おかえり…また…お前がいなくなると怖かった…。
無事に戻って来てくれて…よかった。」
「お父様…ただいま戻りました。」
オリヴァーがカノンから離れ、安堵した表情を向け、カノンもまた優しく微笑んだ。
「お嬢様…おかえりなさいませ。」
「カノンさん…よかったですわ…無事に目が覚めて…。
おかえりなさい。」
「リリー…アイリスさん…ただいま戻りました。
………殿下は…。」
涙ぐみながらも侍女のリリー、令嬢友達のアイリスがカノンに声を掛け、カノンもまた二人の言葉に笑顔を向け応えた。
カノンがふとライラックがいない事に気付き、皆に疑問を投げ掛けた。
カノンの問いに答えたのは兄のフロックスだった。
「殿下は王宮にいるよ。
さっきまでは一緒にいたんだけど、急な仕事で王宮に呼び出されてしまって…。」
「…そう…ですの…。
あの…今から…王宮に行きたいのです…。
準備…お願いできますか。」
「……お任せください!」
カノンの力強い瞳と言葉に侍女のリリーは、はきはきした様子でカノンの出掛ける準備に取り掛かった。
皆も優しい笑顔で「行ってらっしゃい」とカノンを見送る準備に入った。
準備が早々に済み、カノンはライラックに久しぶりに会う事もあり、緊張の足取りで馬車に乗り込んだ。
カノンが今か今かと緊張しながらも王宮に着くのをしばらく待っていると、馬車は王宮に着いた。
止まった馬車からカノンは転ばないように、だが、急ぎ足で降り、ライラックがいるであろう彼の書斎を目指して駆け出した。
先ほどまで緊張し、会った時何て声を掛けていいか悩んでいたカノンだが、今はそんな考えさえも吹き飛んで、ただ会いたい…それだけの感情で王宮内を走っていた。
カノンがライラックの書斎を目指して廊下を走っていると、見慣れた後ろ姿が視界に入ってきた。
今まさに会いたいと思っていた人物、ライラックの後姿だった。
「……ライラック様!!!」
カノンは走りながらライラックを呼び、近づいた。
急に後ろから聞き慣れた声で名前を呼ばれたライラックは、驚いた顔で声のする方に振りかった。
ライラックが振り返り、カノンの姿が視界に入ったのと同時に、カノンに抱き着かれた。
「…カ…ノ…ン?」
カノンは抱き着いた体を離し、入れ替わる前に彼にしたように両頬を優しく包み、そっと口づけをした。
口づけていたのを離し、、優しい笑顔を見せたカノン。
「…ライラック様…ただいま…戻りました。」
「っ…おかえりっ…。」
カノンの笑顔と言葉にライラックは込み上げそうになる感情を少し抑え、カノンを力強く、だが、痛くないように抱きしめた。
カノンもまた彼に応えるように腕を背中に回し、抱きしめ返した。
「…ライラック様…聞いて頂きたい事が…ありますの。」
「…うん。」
カノンは背中に回していた腕の力を緩め、体を少しだけ離し、ライラックをまっすぐに見つめた。
「…わたくし…以前は、自分の生い立ち、環境…周りの方々の考え…全てにつまらないと思っていましたの…。
でも…不思議な体験をして、言葉にするだけではいけないと…行動に移さなければ何も変わらないと…大切な人達に教えて頂きましたわ…。
これからは…その大切な人達に、頂いたものをお返し出来るように、わたくしの記憶に叩き込んだ知識と技術で…ライラック様と一緒にこの国を良くしていきたいと思っておりますの。
もう…自分の事や、人生に…つまらないって言って投げ出したりしません。
中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!!」
そう宣言したカノンの表情は力強い瞳と笑みを浮かべていた。
~カノン編・完~
ここはアルストロメリア王国、フローライト家のカノンの部屋。
「う…うーん?」
ぼんやりとした意識の中、カノンは目をこすりながら何度も瞬きをし、意識を覚醒させるのに努めた。
そんなカノンの様子を見て慌てた様子で駆け寄り、声を掛けてきたのは姉のサントリナだった。
「美桜ちゃん!!大丈夫?!昨日、急に部屋で倒れたと聞いて心配したのよ!!」
「……サントリナ…お姉様?」
「……お姉…様…という事は…カノン?」
「……はい…。」
カノンはまだぼんやりとする中、ゆっくりと体を起こし、サントリナの問いに答えた。
カノンの返事を聞いたサントリナは驚いた表情をしたが、次第に涙目になり、体を起こしたカノンを抱きしめた。
「カノン…目が覚めて…よかった…。おかえりなさい。」
「お姉様…ただいま戻りました。」
「……サントリナだけずるい…。僕にも抱き着かせてくれないか…。」
「……お兄様……今日だけは…わたくしからお願い申し上げますわ。」
サントリナとカノンの様子を見ていた兄、フロックスは少しだけ拗ねた表情を見せたが、カノンの言葉にぱぁっと明るい表情になりサントリナと場所を変わり、カノンを抱きしめた。
「おかえり…僕の…麗しく、美しい妹よ…。本当に…目が覚めてよかった。」
「次…私も…よいか…フロックス…。」
「父様は…まだダメ…。」
「…そ、そんなぁ…。」
フロックスはカノンを抱きしめたまま離れず、父、オリヴァーの言葉でさえも離れようとしない。
そんなフロックスの体をカノンから引きはがしたのは、サントリナで、オリヴァーの背中を軽く後押しした。
背中を押されたオリヴァーは、おずおずと、カノンを抱きしめた。
「……あぁ…カノン…。
おかえり…また…お前がいなくなると怖かった…。
無事に戻って来てくれて…よかった。」
「お父様…ただいま戻りました。」
オリヴァーがカノンから離れ、安堵した表情を向け、カノンもまた優しく微笑んだ。
「お嬢様…おかえりなさいませ。」
「カノンさん…よかったですわ…無事に目が覚めて…。
おかえりなさい。」
「リリー…アイリスさん…ただいま戻りました。
………殿下は…。」
涙ぐみながらも侍女のリリー、令嬢友達のアイリスがカノンに声を掛け、カノンもまた二人の言葉に笑顔を向け応えた。
カノンがふとライラックがいない事に気付き、皆に疑問を投げ掛けた。
カノンの問いに答えたのは兄のフロックスだった。
「殿下は王宮にいるよ。
さっきまでは一緒にいたんだけど、急な仕事で王宮に呼び出されてしまって…。」
「…そう…ですの…。
あの…今から…王宮に行きたいのです…。
準備…お願いできますか。」
「……お任せください!」
カノンの力強い瞳と言葉に侍女のリリーは、はきはきした様子でカノンの出掛ける準備に取り掛かった。
皆も優しい笑顔で「行ってらっしゃい」とカノンを見送る準備に入った。
準備が早々に済み、カノンはライラックに久しぶりに会う事もあり、緊張の足取りで馬車に乗り込んだ。
カノンが今か今かと緊張しながらも王宮に着くのをしばらく待っていると、馬車は王宮に着いた。
止まった馬車からカノンは転ばないように、だが、急ぎ足で降り、ライラックがいるであろう彼の書斎を目指して駆け出した。
先ほどまで緊張し、会った時何て声を掛けていいか悩んでいたカノンだが、今はそんな考えさえも吹き飛んで、ただ会いたい…それだけの感情で王宮内を走っていた。
カノンがライラックの書斎を目指して廊下を走っていると、見慣れた後ろ姿が視界に入ってきた。
今まさに会いたいと思っていた人物、ライラックの後姿だった。
「……ライラック様!!!」
カノンは走りながらライラックを呼び、近づいた。
急に後ろから聞き慣れた声で名前を呼ばれたライラックは、驚いた顔で声のする方に振りかった。
ライラックが振り返り、カノンの姿が視界に入ったのと同時に、カノンに抱き着かれた。
「…カ…ノ…ン?」
カノンは抱き着いた体を離し、入れ替わる前に彼にしたように両頬を優しく包み、そっと口づけをした。
口づけていたのを離し、、優しい笑顔を見せたカノン。
「…ライラック様…ただいま…戻りました。」
「っ…おかえりっ…。」
カノンの笑顔と言葉にライラックは込み上げそうになる感情を少し抑え、カノンを力強く、だが、痛くないように抱きしめた。
カノンもまた彼に応えるように腕を背中に回し、抱きしめ返した。
「…ライラック様…聞いて頂きたい事が…ありますの。」
「…うん。」
カノンは背中に回していた腕の力を緩め、体を少しだけ離し、ライラックをまっすぐに見つめた。
「…わたくし…以前は、自分の生い立ち、環境…周りの方々の考え…全てにつまらないと思っていましたの…。
でも…不思議な体験をして、言葉にするだけではいけないと…行動に移さなければ何も変わらないと…大切な人達に教えて頂きましたわ…。
これからは…その大切な人達に、頂いたものをお返し出来るように、わたくしの記憶に叩き込んだ知識と技術で…ライラック様と一緒にこの国を良くしていきたいと思っておりますの。
もう…自分の事や、人生に…つまらないって言って投げ出したりしません。
中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!!」
そう宣言したカノンの表情は力強い瞳と笑みを浮かべていた。
~カノン編・完~
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