「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」

桜庵

文字の大きさ
上 下
152 / 170
最後の異世界生活~カノン編~

~兄の話~

しおりを挟む
カノンが着替え終え、ダイニングテーブルに顔を出すと、ゆいが夕食の準備をしており、ゆい以外の皆は、席に着いて他愛のない会話をしていた。

「今日はカレーなの。…カノンちゃん、起きたばかりだけど、カレー…食べれそう?おかゆにしましょうか?」

「大丈夫ですわ。嫌な夢を見たという事だけで、気分や体調は平気ですの。」

「よかった。それじゃぁ…はい、これと…これ、それから…。」

ゆいとカノンは、話しながら手際よく夕食の準備を済ませていき、全員分の食事を運び終えたところで、皆と同様に席に座り、手を合わせて夕食を進めていった。

カノンが黙々と銀食器を進めていると、原さんが声を掛けてきた。

「そういえばカノンちゃん、嫌な夢を見た…って言っていたけど、夢の記憶あるの?」

「…い、一応…。」

「どんな夢だったか聞いてもいい?あ!嫌な夢って言うくらいだから、無理には…。」

「大丈夫ですわ。お話します…とても…お恥ずかしい話なのですが…。」

カノンは動かしていた銀食器を止め、夢の中での出来事を話した。
カノンの話に皆も夕食を採りながら静かに聞いていた。

「…お前が弱気とか…珍しいな。」

「はい…不覚にもそんな状態に…。」

「でも、お兄さんの事を思ったからある程度の暗い感情はなくなったんだよね。すごいね、カノンさんのお兄さん。どんな方なんだい?」

かなめに続いてとおるが、カノンに声を掛け、とおるの疑問にカノンは気まずそうな表情をし、そんなカノンの様子に、皆は疑問の表情を浮かべた。

「……何と言いますか…とても明るくて、陽気な方…ですわ…。少し…いえ、かなりうるさいですが…。」

「…カノンちゃんのお兄さん…全然想像つかない…。」

原さんの言葉にカノンは一つ息を吐き、決意した眼差しで原さんを見つめた。

「…お兄様を言葉で表現するのは難しいですわ…。いのりちゃんをわたくしだと思って、お兄様を演じてみます。」

「う、うん…。」

カノンは立ち上がり、原さんに近づき深く深呼吸をした。
その様子を皆が静かに見ていた。

「…コホン……。おぉ~~可愛い妹よ!!今日も美しい!!可憐だ!!さすがは僕の妹だ!!!うんうん、今日も麗しいなぁ~~!!!」

カノンは自分の兄、フロックスの事を思い出しながら普段言われている事や口調、調子などを全力で演じながら、原さんに抱き着いた。

カノンが演じ終わり、原さんから離れて皆を見ると、皆は目を丸くしてカノンを見ていた。

「…皆様、そんな目で見ないでくださいまし。これが兄の姿なのですから。」

「な、なんというか…とても愉快な方なんだね…。」

とおるお父様、はっきり、うるさい方だと言ってもいいのですよ。実際、姉やわたくしもそう思っておりますし、姉に関してはあしらってますし。」

カノンが席に戻り、銀食器を再び動かし始めた。
かなめは最後の一口をゴクッと飲み込み、すごいものを見たように顔を引きつらせた。

「すげー…俺とは正反対だな…。妹溺愛がすご過ぎる…。」

「妹愛がすごいのは、かなめさんも負けてないですわよ。」

「はぁ?!べ、別に、そんなじゃねぇし!俺のどこをどう見たら、そんな風に見えるんだよ!」

「全部ですわ。全身から美桜さんを思う気持ちが溢れています。以前、わたくしがこの国に来た時よりも…ですわ。違いまして?」

「~~~!!おかわりしてくる!!」

「ふふっ勝ちましたわ。」

「「「(つ、強い…。)」」」

「(なんか…デジャブ…。)」

カノンとかなめのやり取りを峰岸君や、原さん、ゆいとおるは苦笑いを浮かべながら見ていた。

そんな中、とおるがふと思い出したようにカノンに話し掛けた。

「そういえばカノンさん、来月はもう期末試験があるよね。
それに向けて帰りが遅くなるとか…。あまり無茶しちゃダメだよ。

いくら空手が強くても、女の子だからね。
帰りが遅くなりそうなら連絡くれるかい?
迎えに行くから。」

「わかりましたわ。お迎え、お願い致します。」

カノンととおるの会話を聞いていた原さんの顔が次第に真っ青になっていった。

「うぅ…期末…私の天敵…。」

「いのりちゃん…まだ時間はありますわ。わたくしもお手伝いしますから。」

「僕も…今度こそ、カノンさんと協力するから。」

「カノンちゃん…峰岸君…ありがとう~。」

「原さんは勉強、苦手なのか?」

カレーのおかわりを入れ終わったかなめが席に戻り、カノン達の会話に入ってきた。

「は…はい…。日本語が日本語に聞こえないくらいには…苦手です…。中間はカノンちゃんのおかげで結構な高得点を取れました。
…けど、期末は範囲も広いし…自信ないです…。」

「…そうか…。人には向き不向きがあると思うんだが…。

うーん…そういや、大学で勉強が苦手な俺のダチが、勉強はパズルだ!頭の体操だ!って自分に言い聞かせながら机に向かっているのを何度も見たな…。」

「勉強はパズルで…体操…。それ、私もやってみます!勉強だと思うから身に付かないって、この間の中間の時に感じました!ありがとうございます!」

「お、おう…。」

原さんの満面の笑みにたじろぐかなめ
そんな二人の会話を皆がにこやかな表情で見ており、夕食の時間が和やかに刻々と過ぎていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...