「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」

桜庵

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~元に戻ったカノンの生活編 Chapter2~

~美桜が紡ぎ、カノンが繋いだもの~

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外は次第に明るくなり昨日の台風が嘘のように空は晴れ渡っている。
そんな中カノンは一人、無心になり素手で作業をしていた。
衣服は泥にまみれ、手は土やすり傷だらけになりながらも一本、また一本と倒れている木を起こし植え直す。

「(…美桜さんが…アザレアの人達が…立て直した政策…こんな災害のせいで二度と不憫ふびんな思いになどさせません。わたくしが…絶対に守ってみせます。皆さんの生活も…将来も…二度とつぶさせません…わたくし一人でも…やり遂げます。…なんとしても。)」

カノンが背後の気配に気づかず目の前の作業に集中していると、肩に優しく手を置かれ、声を掛けられた。
その行動や声にカノンは驚き振り向く。

「カノン嬢。」
「……殿…下。」

そこにはライラックが呆れた顔で立ち、その後ろにはアザレアの人達が集まっていた。
街の人達だけでなく、父や兄、姉、アイリスや屋敷の使用人達もそろっている。
その様子にカノンは再度驚く。

「皆さん…どうして…。」
「カノン嬢の悪いクセだよ…一人で何でも抱えてしまうのは。今も…皆が近づく気配、気づいてなかったでしょ。…さしずめ、皆を守る…とか、不憫な思いはさせない…とか考えて作業していた…違うかい?…手がこんなになるまで…。」

ライラックはカノンのボロボロになった手に気付き手を取り、優しくなでた。
二人の様子を皆が静かに見守る中、使用人先輩の一人が一歩前に出てカノンに声を掛け頭を下げた。

「…あの、カノン様…。今更ではございますが…今までの態度、謝罪申し上げます。カノン様が変わったご令嬢だと吹聴されてから、わたくし達古株の使用人はカノン様に必要最低限しか接していませんでした。今の若い使用人達は皆カノン様を敬いうやまいお慕いおしたいしているというのに、わたくし達は謝罪もまだで…。代表して謝罪致します。誠に…申し訳ございませんでした。」

先輩使用人はカノンの目を真っ直ぐに見て、再び深く頭を下げた。
その様子をカノンはただ静かに見ており、侍女のリリーが前に出て補足する。
カノンがここ数か月、屋敷内を駆け回り使用人を気に掛けていた事で少しずつ使用人達の心に変化があったのだと。
カノンは謝罪を受け入れ静かに言葉を返した。

「カノン嬢…君は責任感が強い。誰よりも強くて優しいよ。だけど、もう…一人で抱え込もうとしなくていいんだよ。今の君は…一人じゃないだろう?こんなにたくさんの人が駆けつけてくれたんだ。君が…この場所に一人で来るだろうと皆が考えたんだ。それくらい…君を想う人は多いんだよ。僕もその一人だ。」
「……ご心配…お掛けしました…。」

ライラックはカノンに優しく微笑み、カノンはライラックの笑顔と言葉に張りつめていた緊張が解け、目に涙を浮かべた。

二人の様子を見ていた兄が手を二回叩き使用人や街の人達に声を掛け、災害後の片づけ作業に入るよう促した。
それに合わせて皆が各々動き事を進める。

姉のサントリナやアイリス、リリーはカノンを着替えさせる為、ここに来るまでに話していた空き家にカノンを連れていき、湯浴みゆあみや着替えを済ませた。
空き家といえど、一通り家具がそろっており、カノンは簡易ソファに座りリリーに髪を整えてもらっていた。
カノンの支度が終わった頃、サントリナやアイリス、リリーと入れ替わるようにライラックが空き家に入ってきた。

「カノン嬢、失礼するよ。手…見せてくれるかい?傷の手当てするよ。」
「……お願い致します。」

ライラックはカノンの正面に来るようにソファに座り手慣れた様子で傷の手当てをしていく。
カノンはそれをただ静かに見ていた。

「……よし、これで終わり。」
「……ありがとうございます。…あの…殿下…。」
「ん?」
「どうして…こんなにも優しくしてくれるのですか…。先日…殿下の事…傷つけましたのに…。」

カノンは手当てしもらった手を大事な物のように胸に持っていき俯きながら聞いてみた。

「ほっとけないから…かな。たしかに、傷はついたけど…それでもほっとけなかったんだ。」
「………申し訳…ございませんでした。傷つけた事…謝罪…申し上げます。」
「うん…。ただ、許す条件…あの時、どうしてあんな事言ったの?」

『あの時』カノンがヤキモチと認めた時の事を指しているとわかってはいるが、いざ言葉にするのは恥ずかしいと感じるカノン。
だが、ここで言わなければまたあの時の二の舞だ。
意を決してカノンは顔を赤らめ俯いたまま伝えた。

「…ヤキモチ…ですの。他の子と楽しそうにしている殿下を見て…苦しくなりました。」
「そっか…。カノン嬢はあの時、否定していたけど…やっぱりヤキモチだったんだね。…ヤキモチの理由は?」
「…っ…」

ヤキモチの理由を聞かれ思わず顔を上げたカノン。
そこには少し意地悪く微笑むライラックの顔があった。
カノンの気持ちに気付いたライラックだが、彼女からの言葉が欲しいあまり、少し意地悪をしてみる。
カノンは顔をさらに赤くした。

「……そ…んなの…。…好きすぎてつらい…ですわ。」

カノンの言葉を聞いたライラックは今まで以上に優しく微笑んだ。

「(その微笑みはずるいですわ…)で…殿下はどうなのですか…わたくしばかりこんな恥ずかしめ…あんまりです。」
「そんなこと…。」

カノンが恥ずかしさでライラックにも言わせてやろうと反発してみるが、ライラックは、満面の笑みで答えた。

「ずっと前から好きだよ」
「?!…い、いつから…ですか…。」
「んー…意識したのはお茶会の時かな。君が僕に興味ないって言ったとき、すごく新鮮な反応だと思って。君と会っているうちにだんだん居心地が良いのを感じて、いつの間にか好きになってた。」
「……そ、そうですの…。」
「カノン嬢は?」
「…わ、わたくしは…秘密です…。」

カノンの言葉に残念そうにしながらも楽しそうに笑っているライラック。
カノンも久々のライラックとのおしゃべりに楽しくも嬉しく思っていた。

「…カノン嬢、もう一度言うよ。これ以上、一人で無茶はしないで…何かあったら今後は僕に相談する事…。いいかい?」
「……はい。」
「よし!なら仲直り…目、閉じて?」

カノンはライラックの言葉に一瞬キョトンとし、目を閉じた。
それを見たライラックはカノンの両頬を自身の両手で包み目を伏せ、優しく触れているのがわかるように口づけた。

ライラックが唇を離し目を開けると、同じく目を開けてこれ以上ないくらい顔を真っ赤にして少し潤んだ瞳のカノンの顔があった。
ライラックは愛しさが込み上げ、カノンを胸に抱き寄せた。

「(…殿下の腕の中…心地良いですわ…。わたくしはもう一人じゃない…。これは…美桜さんがアザレアの人達や屋敷の皆さん、家族や殿下をわたくしに紡ぎ、わたくしが未熟ながらも繋いだ結果…。ただ…心残りは…。)」

カノンはライラックに身を預け心の中で大切に想う人達を思い浮かべた。
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