「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」

桜庵

文字の大きさ
上 下
91 / 170
~元に戻ったカノンの生活編 Chapter2~

~ヤキモチ~

しおりを挟む
――バルコニー

カノンは挨拶が長く続いた事もあり、バルコニーで風にあたり休憩をしていると、何人かのご令息に声を掛けられ、しばし会話をしていた。
中には好意を持っている者もいるようでお見合いやお茶会などの話が出始めた。
さすがのカノンも好意を持つ者の多さに圧倒されたじろぐが、表に出ないように冷静に笑顔で対応した。

「(……まさかこの場でこんなにもお見合いの話を持ってこられるとは…。それに…明らかに口説いてる方もいましたわ…。今の方々には丁重に断りのお返事を書かなくては…。殿下にも挨拶まだですし…探しに戻りましょう。)」

カノンはご令息達からのアプローチが落ち着き再びパーティー会場に戻りライラックの姿を探し始めた。
会場内を見渡しながら探していると令嬢友達のアイリスと出合い、挨拶を交わしライラックの事を訪ねた。
アイリスは気まずそうに人だかりを指さして教えてくれた。
だが、アイリスが指さした人だかりと言うのは女性ばかりで、カノンが疑問に思いながら目を凝らしてみると、女性達に囲まれ笑顔で対応しているライラックの姿があった。

「…なんだか…楽しそうですわね。」
「殿下…私達の前では軽い感じだけれど、身分や見た目、物腰も柔らかいので人気なんですよ…。挨拶がまだだったのですよね。わたくしも協力しますので殿下のもとへ参りましょう。」
「……えぇ…ご協力…ありがとうございます。(他のご令嬢とあんなに…。)」

カノンはやや呆けたほうけた状態でアイリスと会話し、アイリスの協力のもとライラックに近づいた。

「皆様、ごきげんよう。カノン様が殿下にご挨拶がまだとの事で少し殿下を解放して頂けないかしら。それに…お忙しい身分の殿下をあまり独占しているのもよろしくないですわ。ほどほどにしてくださいまし。」

爵位の高いアイリスの言葉にライラックを囲んでいた令嬢達は渋々挨拶をしてその場を去って行った。
その場に三人だけ残り、ライラックは助かったとアイリスにお礼を伝えた。
お礼を聞いたアイリスはごゆっくりと挨拶をしてその場を去り二人だけにした。
カノンは先ほどまで抱いていた感情を考えながらライラックに挨拶をする。
カノンの口から出た挨拶はいつもと違い少しだけ冷たく淡々としており、挨拶を終えたカノンはライラックの顔をまともに見れず下を向いた。

「カノン嬢?……少しいつもと様子が違うようだけど…パーティーに疲れてしまったかい?どこかで休む?…何か飲み物を…。」
「………そんな風に…他の子にも優しいのですか。」
「え……今…何て…」
「…はっ…いいえ、何でもありませんわ!申し訳ありません、失礼致します。(失言ですわ!あんな事言うなんて!)」

ライラックの優しさにカノンは他の子にも優しく接しているのかと考えると胸を掴まれるような感覚を抱き、小さい声で心の声がこぼれた。
その声をライラックは微かに拾い、カノンはそれに気づき慌ててお辞儀をしライラックに背中を向けて会場を飛び出した。

「(わたくし…なぜあのような事を…なぜあんな感情を…。)」
「カノン嬢!待って!」

カノンが会場を飛び出し、行く当てもなく王宮の廊下を走っていると、後ろから追いかけてきたライラックに名前を呼ばれ、カノンに追いついた彼に腕を掴まれ二人は立ち止まった。
カノンは振り返り俯きながらライラックの腕を優しく振り払う。

「やっと…はぁ…追いついた…君…そのヒールで…走るの早いよ…はぁ…。」
「……殿下…急に会場を飛び出した事は謝罪致します。ですが…殿下は会場に早くお戻りくださいまし…。」
「…君を残して戻れないよ。一緒に戻ろう?」

ライラックに会場に戻る事を促すカノンだが、ライラックはカノンに一緒に戻る事を伝える。
その優しさに先ほどの女性に囲まれたライラックの姿がカノンの頭をよぎり、俯いたまま頭を左右に小さく振り会場に戻りたくはないと伝えた。
その様子にライラックはカノンの顔を覗き込み声を掛ける。

「…カノン嬢?会場で何かあったのかい?何か…気に障るような事したかな?」
「なんでも…ありませんわ…。本当に…何も…。」
「何でもないように見えないよ。言ってくれないとわからない事もある。何があったの?カノン嬢?」

ライラックはカノンが何故会場に戻りたくないのか理由を聞こうと優しく接し、カノンの左頬に自身の右手を伸ばし触れようとした刹那、カノンに振り払われた。
カノンはライラックに優しくされる度に切ない感情から怒りの感情に次第に変わっていった。

「…優しくしないでくださいまし。他の子に優しくした後に…わたくしにその優しさを向けないでください。」
「……カノン嬢…それは…ヤキモチ?」
「?!ちっ…違いますわ!断じてそのようなものではありません!殿下の優しさは煩わしいのです!わたくしの事は…ほっといてくださいまし!」

カノンは怒りの感情と図星を突かれ本気ではない言葉を勢いで伝えてしまい、気付いた時には遅く、ライラックの顔は一瞬驚いた顔をしたがすぐに寂しそうに微笑んだ。

「僕は…さっき君が他のご令息達に囲まれている時、ヤキモチを焼いたよ。僕は基本、誰にでも優しいわけではないよ。君だから優しくするんだ。それも必要なかったみたいだね。僕は先に戻ってるから。」

カノンが否定する間もなくライラックは寂しそうに、だが最後の方は淡々とした様子で伝えきびすを返し、カノンをその場に残して会場に戻っていった。

「(……どうして…こうなってしまうの…変わったつもりでいて…何も変わってないわ…。本当は…ヤキモチ…なんですの。)」
カノンは去って行くライラックの背中を見ながら左頬に静かに一筋の涙を流した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...