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第20章:神が訪れる日
3話:儀式
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裕也たちは朝食を終え、神社へと向かう。他の相撲部の面々も神社へと向かい、この日の儀式の準備が始まった。素華と真由美は参加したが、百合根は儀式には参加しなかった。受験生だから、というよりは、どちらかと言うと自分はこの集まりにふさわしくないと考えているようだ。彼女は人助けもするが、その一方で犯罪行為にも加担している。純粋な人助けでないのならば、ここに居てはいけないと。
そんなわけで、相撲部は神社を徹底的に掃除し、その間明日香は体を清めていた。神社内は立ち入り禁止のしめ縄が張られている。本来は家族だけで行う厳かな儀式は本殿の周りで行われ、酒、米、塩の供物を用意し、お香を焚かれて良い匂いが漂っている。相撲部の皆は、学生服でその状況を見守っている。厳かな儀式なのでもう少しいいものを着ておきたかったが、学生なのでこれが限界だった。
薄暗く狭い本殿の中、明日香は目を閉じて神の降臨を待っていた。真っ白な和装に身を包んだ明日香は、同じように純白の装いな古々と振々に守られながら、タケミカヅチが残した分身の存在を常に意識し続ける。目を閉じてはいるが、決して眠ることも許されないまま、ひたすらその時を待ち続ける。余計なことを考えないよう訓練してきた明日香だが、それでもあまりの退屈さ、不毛さについついどうでもいいことを考えてしまう。今日の夜何しよう、何を食べたいかと、余計なことを考えてしまうので、無心で待ち続けるのに苦労するのだ。
『来たわ』
古々に言われ、明日香はようやく安堵の息をつく。来た、とはいってもそれは感覚の鋭い古々が存在を把握できただけ。感覚の鈍い人間の域を超えない明日香の感覚では、まだその気配を感じるに至らない。神の気配を強く感じたのは、古々の宣言から20秒ほど経ってのことだ。雷雲のように、心がざわつき本能的に恐怖を覚えるような。何も起こっていないはずなのに確実に何かが起こっているような言いようもない焦燥感に、明日香は背筋をピンと伸ばす。
神社の境内で一部始終を見守っていた裕也たちも、ぞわぞ羽と鳥肌が立つような感覚に無言で耐えていた。反応を声に出したいところだが、儀式の最中は無言で色とのお達しだ。そこに何がいるかは見えないが、古々と振々が跪いてそれを出迎えるのが見えた。
「お待ちしておりました。どうか、私達が集めた信仰心をお受け取りください」
厳かな雰囲気の中、明日香も土下座の体勢でそれを出迎えた。空気が張り詰め息がつまる。何も見えないのに、気配だけが確かに移動し、すれ違う感覚がする。いつ雷に撃たれるかもわからないようなひりついた感覚が皮膚を舐めるようにまとわりついている。
頭を上げ、古々と振々のご神体のさらに奥に安置されたタケミカヅチのご神体、石像のほうに目をやると、直視した瞬間にそこだけ空間が歪んで見えるような錯覚がした。はた目にはなんの意味もなく激しく脈打つ心臓を抑えるように深呼吸していると、不意に強い気配が消えた。
そんなわけで、相撲部は神社を徹底的に掃除し、その間明日香は体を清めていた。神社内は立ち入り禁止のしめ縄が張られている。本来は家族だけで行う厳かな儀式は本殿の周りで行われ、酒、米、塩の供物を用意し、お香を焚かれて良い匂いが漂っている。相撲部の皆は、学生服でその状況を見守っている。厳かな儀式なのでもう少しいいものを着ておきたかったが、学生なのでこれが限界だった。
薄暗く狭い本殿の中、明日香は目を閉じて神の降臨を待っていた。真っ白な和装に身を包んだ明日香は、同じように純白の装いな古々と振々に守られながら、タケミカヅチが残した分身の存在を常に意識し続ける。目を閉じてはいるが、決して眠ることも許されないまま、ひたすらその時を待ち続ける。余計なことを考えないよう訓練してきた明日香だが、それでもあまりの退屈さ、不毛さについついどうでもいいことを考えてしまう。今日の夜何しよう、何を食べたいかと、余計なことを考えてしまうので、無心で待ち続けるのに苦労するのだ。
『来たわ』
古々に言われ、明日香はようやく安堵の息をつく。来た、とはいってもそれは感覚の鋭い古々が存在を把握できただけ。感覚の鈍い人間の域を超えない明日香の感覚では、まだその気配を感じるに至らない。神の気配を強く感じたのは、古々の宣言から20秒ほど経ってのことだ。雷雲のように、心がざわつき本能的に恐怖を覚えるような。何も起こっていないはずなのに確実に何かが起こっているような言いようもない焦燥感に、明日香は背筋をピンと伸ばす。
神社の境内で一部始終を見守っていた裕也たちも、ぞわぞ羽と鳥肌が立つような感覚に無言で耐えていた。反応を声に出したいところだが、儀式の最中は無言で色とのお達しだ。そこに何がいるかは見えないが、古々と振々が跪いてそれを出迎えるのが見えた。
「お待ちしておりました。どうか、私達が集めた信仰心をお受け取りください」
厳かな雰囲気の中、明日香も土下座の体勢でそれを出迎えた。空気が張り詰め息がつまる。何も見えないのに、気配だけが確かに移動し、すれ違う感覚がする。いつ雷に撃たれるかもわからないようなひりついた感覚が皮膚を舐めるようにまとわりついている。
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