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第19章:母親
16話
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「可哀そうだし、タイムマシンがあるなら母親を助けに行ってやりたい。それでも、俺にした仕打ちは許せないけれどな……だけれど、俺の母親も、誰かが救わないといけないとも思う。……だから、その……真由美、ありがとう」
「私、余計なことしてませんでした?」
「俺個人としては、余計なことだけれど……それでも、俺の母親も救われるべきだと思う。悪い奴だって、さ……救われてもいいんだよ。はぁ……もういい、俺だって、ちょっと感情が複雑なんだ。最悪の母親ではあったけれど、それでも母親は母親なんだ。これでまともな母親になってくれたらなんて……ありもしない希望を抱いてる」
裕也はため息をつく。
「ま、どうせ無理だろ。でも、いいさ。自分が酷い目にあったからって、誰かをひどい目に合わせていいわけじゃない。あんな女、救われようと救われなかろうと……俺に関わりさえしなければどっちでもいい」
裕也は投げやりに言うと、母親に出され、ぬるくなってしまったお茶をグイっと一気飲みする。
「今日はありがとう、みんな。俺は帰る」
どんな顔をすればいいのかもわからず、裕也はそう言って足早に家に帰っていく。残された4人の相撲部員は、そっとしておこうと無言のまま彼を見送るのであった。
「古々。これでいいんだよな?」
帰宅途中、裕也は古々に話しかける。
『何が? 母親のことなんだろうけれど、何に対して答えればいいのかもわからないよ?』
「たとえ、生みの親でもあっても、けちょんけちょんにけなしても、いいんだよな?」
『そんなの、問題ないに決まってるでしょ? 子供は奴隷じゃない。産んだ責任も取れていなかったくせに、親子の絆みたいなものを信じちゃっているのは笑えちゃうね。きっと、何か妙なドラマや漫画でも見たのかも……でも現実問題、親子なんてものはそんないい関係ばっかりじゃあないんだから、気にしなくっていいの。そして、仲たがいに立ち向かって変えていけるような奇跡なんてそうそう起こるもんじゃあないんだから。諦めていいんだよ。あの母親が近くにいたら、せっかくできた仲間も嫌気がさしちゃうでしょ?
あなたの頼みをね、断ったりせずに協力してくれるような仲間……そうそういないよ? それはあなたが勝ち取った信頼があればこそなんだから、今ある絆を大事にしなさいな。血縁の絆は特別だけれど、無敵じゃあないんだから』
「……そうだな」
古々にそんなことを言われなくても、裕也はなんとなくわかっていた。親というのは、子供にとって安全装置の一つだ。それが完全になくなって不安にならないわけもなく、誰かに肯定されて背中を押されたかっただけだ。
そうして、古々に背中を押してもらった裕也だが、それでもすぐには心の整理がつかず、とぼとぼと階段を下りていたが、そこに追いつく人影が一人。
「まーってください、三橋先輩」
「……真田さん? どうしたよ?」
軽やかに階段を駆け下りてきた真由美に、裕也は肩をすくめて応じる。
「私、余計なことしてませんでした?」
「俺個人としては、余計なことだけれど……それでも、俺の母親も救われるべきだと思う。悪い奴だって、さ……救われてもいいんだよ。はぁ……もういい、俺だって、ちょっと感情が複雑なんだ。最悪の母親ではあったけれど、それでも母親は母親なんだ。これでまともな母親になってくれたらなんて……ありもしない希望を抱いてる」
裕也はため息をつく。
「ま、どうせ無理だろ。でも、いいさ。自分が酷い目にあったからって、誰かをひどい目に合わせていいわけじゃない。あんな女、救われようと救われなかろうと……俺に関わりさえしなければどっちでもいい」
裕也は投げやりに言うと、母親に出され、ぬるくなってしまったお茶をグイっと一気飲みする。
「今日はありがとう、みんな。俺は帰る」
どんな顔をすればいいのかもわからず、裕也はそう言って足早に家に帰っていく。残された4人の相撲部員は、そっとしておこうと無言のまま彼を見送るのであった。
「古々。これでいいんだよな?」
帰宅途中、裕也は古々に話しかける。
『何が? 母親のことなんだろうけれど、何に対して答えればいいのかもわからないよ?』
「たとえ、生みの親でもあっても、けちょんけちょんにけなしても、いいんだよな?」
『そんなの、問題ないに決まってるでしょ? 子供は奴隷じゃない。産んだ責任も取れていなかったくせに、親子の絆みたいなものを信じちゃっているのは笑えちゃうね。きっと、何か妙なドラマや漫画でも見たのかも……でも現実問題、親子なんてものはそんないい関係ばっかりじゃあないんだから、気にしなくっていいの。そして、仲たがいに立ち向かって変えていけるような奇跡なんてそうそう起こるもんじゃあないんだから。諦めていいんだよ。あの母親が近くにいたら、せっかくできた仲間も嫌気がさしちゃうでしょ?
あなたの頼みをね、断ったりせずに協力してくれるような仲間……そうそういないよ? それはあなたが勝ち取った信頼があればこそなんだから、今ある絆を大事にしなさいな。血縁の絆は特別だけれど、無敵じゃあないんだから』
「……そうだな」
古々にそんなことを言われなくても、裕也はなんとなくわかっていた。親というのは、子供にとって安全装置の一つだ。それが完全になくなって不安にならないわけもなく、誰かに肯定されて背中を押されたかっただけだ。
そうして、古々に背中を押してもらった裕也だが、それでもすぐには心の整理がつかず、とぼとぼと階段を下りていたが、そこに追いつく人影が一人。
「まーってください、三橋先輩」
「……真田さん? どうしたよ?」
軽やかに階段を駆け下りてきた真由美に、裕也は肩をすくめて応じる。
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