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第18章:居場所になる

29話

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「幸せって何なんでしょうね? 招福教に祈るのをやめて、神社に毎日のように出入りしている今のほうが幸せで……お母さんは明らかに不幸に見える。私が働いたお金で作る食事を憎たらしそうに見ていてさ……まぁ、私も見せびらかしているけれど。そんなに羨ましいなら自分も作ればいいのに……」
「それで母親は目が覚めそう?」
「覚めるわけないですよ。とっくにおかしくなっているので。っていうか、招福教には『人を妬んではいけない』って教義があるのに、それを守っていなくって……馬鹿みたい」
 ナツキは母親の様子を思い起こしてため息をつく。
「今までもお父さんとの関係が冷たくなったような気もするけれど、最近は……本当に仲が悪くなってきちゃってるし。殴られることはなくなったけれど、なんか、複雑な気分で……結局両親は、『自分は殴ってもいいけれど、自分が殴られるのはイヤ』って。そんな根性で、私のことを躾けとか言ってたと思うと……心のどこかで私、本当に両親は私のことを愛していたから殴っていたんだと、思いたかったんですが……やっぱり、愛してなかったのかなぁ」
「子供を愛する親ばっかりじゃないから、そんなもんだよね。でも、貴方の父親は……今までの所業は褒められたもんじゃなかったかもしれないけれど、最後の最後に、目を覚ましていなかった? 私のこと、6回ベルトでペチペチってやってて……痛くなかった。しかも、あえて6回やって、自分から裕也……あの大きいお兄さんに殴られてた気がするけれど?」
「父親は、私と話したがってます。でも、まだしばらく許す気になりません……修学旅行、結局他の生徒にバカにされるから、行く気になれなかったし……そうなったのは誰のせいなんだって、何回も、何万回も態度で示してやるつもりです。あの程度で許されたと思ってたら、反省しないでしょう」
「それでも耐えたのなら、本当に目を覚ましたって、認めてあげるべきかもしれないね」
 真由美は言いながら目を伏せる。父親は、ナツキがいない時にこの神社に足を運んできた。鳥居をくぐって、裕也たちに頭を下げた。もちろん相撲部の三人は嫌な顔をしたが、父親は土下座をして、『娘を頼む』と懇願してきた。必要ならば金だって払うからと言って、自分がもう二度と娘に信用されない可能性があることも理解したうえで、相撲部の皆に娘の心のケアを頼んできたのだ。
 父親は、少しはまともになっている。だがそれをナツキに伝えるのは、もう少し先になるだろうか。
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