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第18章:居場所になる
25話:離散
しおりを挟む「おい、お前! もう、諦めろ……俺達のほうが間違ってたんだ。あの、真由美という女の子のほうがよっぽど正しいことを言ってる……というか、あの子のほうがよっぽど、ナツキのためになることを考えてるじゃないか。俺達なんかと違って」
やはり父親は、真由美の行動に何か思うところがあったらしい。目が覚めたように今までとは真逆の発言をしている。何をいまさら、と思わないでもないが、真由美が体を張った意味はあったのかもしれない。
「何を言ってるの! こんなガキどもにいいようにされて、悔しくないの!?」
「悔しいさ! だがそれと、どちらが間違っているかは関係ないだろう……ならばお前は、ベルトで殴られるのがこんなに痛いって知ってたのか? 武田さんがそうしているからって安易に真似して、俺達は……」
父親が自分の間違いを反省しているというのに、全く反省していない母親は拳を握り締めて唸り声をあげている。武田というのが誰だかはわからないが、きっと同じように鞭で子供にいうことを聞かせている誰か、なのだろう。
「うあぁぁぁぁぁ! もう、知らない! もう、仕事も途中で抜け出さきなきゃならないし、変な女には絡まれるし……ナツキがちゃんと祈らないからそうなるのよ!」
母親は苛立たし気に咆哮を上げながら鍵を地面に叩きつける。彼女にとっては、自分の行動は決して間違っておらず、間違ったのは信心の低いナツキのせいなのだ。ナツキが声を失い、唖然としていたのを母親は見ていなかった。
「今日、どこに泊まろう……」
鍵を自分が預かることになるので、家に帰れないわけではないのだが、あまりにも家に帰りたくない気持ちが強くなりすぎて、ナツキは自然とそんな言葉が出てしまう。
「私の家でいいけれど?」
「うち、泊る?」
ナツキがぽつりとつぶやいた言葉に、明日香と真由美の声が重なる。
「男の俺が泊めるわけにはいかないから、どっちかに任せるよ」
即答できなかった裕也はそう言って二人の顔を見る。二人は頷いてさらに話を詰める。
「それなら、ナツキちゃんの服を洗わなきゃだし、由香利の服も洗わなきゃだから、ウチにいこっか……まぁ、私の親のことはどうにでもなるから……」
本当にこれでよかったのだろうか? 真由美はそう思わずにはいられなかった。父親は少しだけ反省したような雰囲気だったが、母親は間違いを全く認めていないようだ。そして、去っていくナツキを見つめる母親の目は憎しみに満ちており、もはや親が子を見るそれではない。
父親は植え込みの縁に座り、震える体を押さえつけるようにじっとしていたが、母親はそうはせず、お隣さんの老婆に一晩だけ止めてもらおうと足掻いていた。
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