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第18章:居場所になる

22話

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「……ナツキちゃんが、どれだけ痛いかわかった? どうせ、わかりもしないで、誰かの真似してベルトでバシバシやってたんでしょ?」
 『誰かの真似して』というのは、招福教の集会に行ったある日を境にそういった体罰を行うようになったから、というナツキの証言からである。どうも、手で直接殴ることは手を穢すことにつながるとかで、道具を介して痛みを与えるのが正しい作法なのだという。両親を待っている間、ナツキとの会話で明らかになったが、酷い話である。
「警告する……私、これからナツキちゃんがお仕置されるたびに、今みたいに貴方たちにもお仕置を加える。お互いに痛みを分かち合えば、愛情も伝わるだろうし……ちょうどいいでしょ?」
 真由美は極度の興奮状態だ。こうなってしまった彼女は父親をナイフで刺すこともやってのけるほど危ない。そんな彼女の威圧感に気おされ、両親はどちらも黙って頷くしかなかった。
 真由美がこんな風に両親へ向かって暴力を振るったのは、両親を待っている間に話し合った結果によるものだった。『私達は、ナツキのことを愛しているからこうして叩いているんだ』と、いつだったか躾と称して叩かれている時にナツキは言われた。『本当は私達もナツキを叩きたくない』、『私達だって辛い』、などと両親が言っていたが、ナツキはそれを信じたい気持ちはあったが信じきれなかった。そう真由美に漏らしたら、真由美は『本当に愛しているなら同じ痛みにも耐えられる』と、この作戦を申し出たのだ。
 しかし、信じた結果は無駄だった。両親が真由美に怯える光景は、今まで自分では耐えきれない痛みを、ナツキに与えていたようにしか見えない結果だ。ナツキはその光景を見ながら、どこか他人事のような気持ちだった。真由美や明日香、裕也たちのように、自分を助けてくれる存在を望んでいた彼女であったが、あまりに上手くいきすぎてあまりに現実感がない。まるで、夢を見ているかのようだ。本当に大丈夫なのだろうか、いつか夢から覚めないだろうか? そんな心配をしながら成り行きを見守るしかない。
「……じゃあ、次は、私」
 そして、両親をベルトで打ち据えた後、ナツキが予想もしない展開になる。今度は真由美が上着を脱いで、上半身はブラジャーのみの装いで地面に座り込む。
「真田さん……一体何を?」
 ナツキに問われると、真由美は少しだけ躊躇いながら答える。
「……戦場で銃を向けていいのは、自分が銃を向けられる覚悟がある奴だけ、って言うでしょ? 人に暴力を振るうっていうのは、それだけの覚悟が無きゃダメなの。だから、私だって覚悟してきてるんだ。父親でも母親でもいい、私をそのベルトでやってみなよ」
 真由美が吠える。覚悟が決まった彼女は、地面に胡坐をかいて、不動の姿勢を貫いている。
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