上 下
384 / 423
第18章:居場所になる

17話:救出

しおりを挟む
 そうして3人で近所にあるナツキの家へと向かう。一行はあまりに大きな脚立を持って歩いているため、すれ違った人は誰もがみんな明日香たちを振り返っていた。そんな視線を気に留めることもなく、3人は向かっていく。駅から徒歩7分、割かし良い立地にある家だが、見るからに古くて、家賃も安そうな狭いアパートだ。一階はテラスに、二階はベランダに洗濯物を干すスペースがあるが、物干しざおまで暗闇でわかるくらいにボロボロだ。このアパートに住んでいる層の経済状況もうかがい知れる。
『言うまでもないことだが、ここに住んでいるのは全員、招福教の信者だ』
「周りは敵ってことか……それとも、他の信者はおとなしいとか?」
『こんなところに住んでまで信仰を続ける奴が、普通だと思うか? 貧乏でも耐えられる優秀な信者だけが残ってるんだ』
「……似たり寄ったりってことか」
『そうだ。子供がいなかったり、大人になってもう逃げているのが幸いだがな……ナツキちゃんはまだ震えている』
 裕也の問いに、振々は呆れた様子で言う。
「周りのやつが同じ宗教だとか、どうだっていい。邪魔するなら相手になるだけ。子供が困っているのの、見過ごしてなんて置けないし」
「だな。こんな寒いところで濡れたままじっとしてたら風邪じゃ済まねぇ。低体温症? とかになって取り返しのつかないことになっても困る。やるぞ」
 言うが早いか、也は三脚の脚立を広げ、明日香は真由美から着替えを受け取ると、スマートフォンで撮影を始める。
「えー、本宮明日香です。法的には不法侵入になるのかもしれませんが、子供を助けるためなのでご容赦いただければ幸いです」
 明日香は撮影をしながら脚立を上る。裕也と真由美は二人で脚立を押さえ、成り行きを見守った。脚立の上の段からベランダの手すりにしがみつき、よじ登った明日香は震えながら泣いているナツキの姿を確認する。
「えー……疑っているわけじゃなかったけれど、本当に居ました。撮影は継続します」
 そんなことをする親がいるだなんて信じたくなくて、この目で見るまでは嘘であってほしいと祈っていたものの、盗聴の結果は正しかった。
「大丈夫、ナツキちゃん? 今助けてあげるからね……ちょっと刃物向けるけれど、怖くないから」
 ナツキが泣きそうになりながら頷いたのを確認した明日香は、持ってきたカッターを利用し、彼女を拘束していたビニールひもを慎重に切り裂く。彼女の口を塞いでいたガムテープを剥がし、口に詰まっていた布をはぎ取る前に、明日香は口に手を当てて『静かに』と指示をする。寒空に放り出された彼女は鼻がつまりかけ、呼吸も困難になっていて、もしもう少し遅かったらと考えると背筋が凍る思いだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者を奪われて悔しいでしょう、ですか? いえまったく

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:2,883

逃げた村娘、メイドになる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:138

ニートが死んで、ゴブリンに

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:370pt お気に入り:32

文字化け

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

封印されし剣聖の旅路: 消えた真実を求めて

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

不死王はスローライフを希望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,422pt お気に入り:17,523

処理中です...