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第18章:居場所になる

10話

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「ウチの部員に暴行までしておいて、警察を呼ばれたら慌てふためくだなんて、さすがにあり得ないんじゃない? 自分がやったことには責任を持つのが大人のやる事でしょう?」
「やめ……いっ……」
 当然、明日香は関節技については立ったままでも寝ていても使えるよう、一通り覚えている。地面に転がされた素人がどうあがいても解けるような代物ではない。
 言い争いをしていた時からそれなりに見物人はいたが、今はさらに見物人も増えてきている。その中には、相撲部のボランティア活動で一緒になった者もいて、何事かと言いたげだ。悪くない、と真由美は思う。こういう時、自分たちが今までこの街でボランティア活動をしていた実績が認められる。この子たちが悪いことをするはずがない、と理解してもらえる……と。
 一方、ナツキは結局警察が呼ばれる事態になってしまったことを、どう受け止めればいいかわからない様子であった。もしかしたら、両親がまともになってくれるかもしれないという期待。逆に、両親が『お前のせいだ』と、さらに自分へのあたりを強くする不安。どちらかといえば、不安のほうが強いのだ。

 到着した警察、増田 幸弘ますだ ゆきひろは、関節を極められた両親を見ながら怪訝な表情をしていたが、周囲の証言から必要以上の暴力はなかったという証言は取れた。だが、真由美に対しては『馬鹿にしてトラブルを増やすのはだめだ』と、釘を刺される。
 だが問題は、両親の方だ。ナツキの許可を取って背中の傷を見せてみると、幸弘は顔を青くしている。
「これは……酷いですね。ちょっと、お父さん方! これはどうやってついた傷ですか!? 普通に転んだりしてできる傷じゃあありませんよ!」
「そ、それは……」
 両親は言葉に詰まる。彼らにとって、他人からの評価なんかよりも信仰のほうが重要といった感じで、誰になんと思われようと関係ない……のだが、警察だけは怖いようだ。逮捕されてしまえば信仰が中断される。教団への献金もできない。逮捕されて世間の目がどうのこうのとか、自由が奪われるとかそんなことよりも、両親にとってはそちらの方が大事なようだ。
「躾のために……この子、言っても全然聞かない子で……」
「今日だって、修学旅行に行きたいってわがままを言って……」
「修学旅行の何がわがままなんですか? 学校のクラスメイトと思い出を作るいい機会じゃないですか?」
「いや、その……私達、神社やお寺にはいるのは……」
 だから、躾という言葉を使いつつも、彼らの言葉遣いは真由美に対してのそれよりも随分しおらしい。
「この人たち、宗教選択の自由という日本国憲法第20条に違反しているんですよ。お寺や神社に行くことになる修学旅行に行くなんて何事だって、こんな背中の傷を負わせたんですよ」
 母親が言葉に詰まっている間に真由美は両親の印象を少しでも悪くすることを言う。幸弘には頭が痛そうだ。
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