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第18章:居場所になる

7話

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「……ふーん。嘘かもしれないけれど、確かめに行かないんだ。子供よりも教えとやらが大事なんですね。かわいそう」
「子供がかわいそうだとか勝手なことを言うな! うちの子はお前なんかよりも幸せだ!」
「誰も可哀そうなのが、子供のことだなんて言ってませんよ? すぐさま子供のことだと思うあたり、自覚があるんですね。それとも、私以外の人にそういうことをたくさん言われたとか? あー、可哀そう……子供よりも大事なものがそれって、可哀そうな大人」
 言いながら真由美は神社の階段を上る。
「こうやってさ、私が何を言おうと、階段すら登れないんでしょ? もしかして、家の前に鳥居立てたら家に入れなかったりするの? あ、火事の時に玄関に鳥居立ててみたら逃げられないのか……もちろん、放火なんてしませんよ?」
「お前なぁ……私達を馬鹿にしてるのか?」
「おやおや、あなたの信じている宗教とやらは、馬鹿にされたら怒りなさいって、教義なんですか? 何度も言っているように、階段に上がればいいじゃないですか。出来ないんでしょ?」
「おい待て、逃げるな!」
「逃げてるように見えるんですかー? 不思議ですねー。この神社は、普通に入れますけれど? 見えない壁でも見えてるんですか?」
 父親に恫喝されても、真由美は一切怯まずに言い返す。
「そんなんだから可哀そうって言われちゃうんですよ。子供も貴方たちも。それで、どうせ家に帰ったらナツキちゃんを殴るんでしょ? 大人の強い力で押さえつけて、泣きじゃくる女の子を殴るんでしょ? 幸せな子供ですねぇ……」
 言いながら真由美は父親に近づいていく。
「そういう風に育てられた子供は、自殺したり、社会に出れなくってニートになったり、家出してホストにハマって風俗嬢になるんでしょうね。幸せな人生ですね」
「お前なぁ……勝手なことを言って……」
 真由美がそう言うと、ついに父親は怒りに任せて真由美の胸ぐらをつかむ。真由美はこの時を待っていた。さあ殴れ、さあ殴れ! そう思いながら歯を食いしばる準備をしつつも続ける。
「人を不幸にする神様を信じている人って、可哀そう……あ、貴方たちのことじゃないですよ?」
 大丈夫。自分は殴られ慣れている。相撲部で何度も突っ張りは受けている。心臓が恐ろしく早く脈打つ感覚を覚えながら、真由美は痛みと衝撃に身構えた。
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