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第17章:詐欺の片棒
22話
しおりを挟むそんなやり取りがあった少し後の相撲部の活動場所である神社では、何か言いたげな様子で百合根が来たかと思うと、ため息をついてから明日香と世間話を始める。
「ウチの組に出入りしていた若いのが、一人足を抜けたのよね。ただ、出入りしただけで正式に組員だと公言してたわけじゃないから、その後の身元は保証されているみたいだけれど」
「正式に公言って何? ヤクザになったらヤクザだって言わないといけないの?」
「あぁ、それはね。暴力団に所属してることが公になると……家も借りれない、銀行口座も作れない、クレジットカードも作れない、自動車も買えないって感じだから……ほら、携帯電話があれば悪事なんていくらでもできちゃうでしょ? 車だって、人をさらったり死体を捨てに行ったり、なんにでも使える。家だって、ヤクザが借りた家の中で裏ビデオを撮影したりとかそういうことも可能だし……大麻を育てるなんてのもありね。ウチのお父さんも他人名義で青森に山を持ってるんだけれど、一体何に使っているのやら……」
「いや、そういうのはいいから……闇に触れそうだし」
百合根の危ない発言に明日香は苦笑する。
「でも、そういう悪事に使うつもりがなくとも、車も携帯電話も使えないのは不便でしょ? だから、一部の組員は名目上ヤクザへの所属はさせずに、一般人としてそれらのことをやらせてるの。他の組はどういう仕組みか知らないけれど、ウチの組の代紋や名刺を差し出した時点で……まぁ、ヤクザとして、家も車も携帯電話も買えない生活を覚悟するようにというのは伝えてるけれど……その辞めた人ってのは、今までの仕事で一度もウチの組の代紋や名刺を見せなかったのよ、だから銀行口座も車も家もあるわけ……あ、家は賃貸ね?」
「ふーん……それじゃ、もう暴力団とは関係ない一般人として生きていくってわけ? その辞めた一人は、どんな仕事してたの?」
「アイドルのプロデューサーよ。あんたら、何やらかしてくれちゃったみたいね?」
明日香はしまった、という顔をする。バトルガールズの二人をアイドル事務所から辞めさせるように促したつもりはあるが、だからと言ってそのプロデューサーまでやめるように促したつもりはない。
「い、いや……私は知らないよ? とあるアイドルに事務所をやめるようにとは言った覚えがあるけれど」
「……でしょうね。まったく、組の収入が減ったっていうのに、父親は何だか嬉しそうなのが腹立つのよ。エリクサーを出し惜しみするエリクサー症候群な性格が役に立ったとかどうとか、わけのわからないこと言ってるし……」
「お父さん、わりとSNSやってる?」
「SNSは情報の宝庫なんだからやらないわけないでしょ? 設けるためには流行りも網羅しなきゃ」
明日香に尋ねられ、百合根は言う。
「それもそっか」
明日香が苦笑する。
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