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第17章:詐欺の片棒

18話

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 結局、その数日後に二人は事務所からの脱退を正式に認められた。すぐにではなく、一か月半ほど先の話にはなるが、それまでの間に色々な方面と話をつけるという事になったそうだ。
「やっぱり、あのアイドル事務所は色々と後ろめたいところがあったみたい……」
 ファンとのチェキ(写真撮影)やらグッズの販売やらで、相当の収入があるはずなのに、その金の行き先があまりにも不明瞭であることを突っついたときは、詐欺の件以上に顔を青くしていたような印象だった。録音の甲斐もあって強気な言葉も一切出せず、負けを認めるという拍子抜けするほど簡単であった。
「……あのさ、明日香。私達の背中を押してくれてありがとうね。なんかさ、アイドル事務所を辞めた後に、すぐに別の場所で再開するのも契約違反で違約金がどうのこうの……ってのも無しにしてくれるみたいで、やろうと思えば、私達はまたどこかでアイドル活動も続けられるみたい。今度からはきちんと収支報告をだしてくれる事務所に行って、今度こそファンを裏切らずに活動できるように頑張ってみるよ……」
 明日香はカナの話を聞きながら微笑んだ。彼女らの人気は本物だ。自分たちのことを虫料理、爬虫類料理と彼女は言っていたが、それもきちんと料理をすればとてもおいしいものになる(食べたことはないが)はずだ。武道をまじめに学んだアイドルユニット、悪くないじゃないかと明日香は思う。
「あんたたちなら出来るよ。色物ではあるかもしれないけれど、ダンスは本物なんだから。頑張ってね……」
「はい、先輩」
 これで、今までの窮屈なアイドルの生活から解放される。もちろん、このままさらに人気が出てメジャーデビューをするまでに、今まで以上の困難もあるかもしれないが、それも乗り越えていける。カナはそう思い、事務所を辞めた後にどう活動するべきかを考える。何かあったらファンに頼れと明日香は言っていたが、そう簡単なものではないだろう。ファンにはピンからキリまでいろんな人がいるが、はたして彼らの中にプロデュースやマネージングが出来る人がいるのか? それとも、別のアイドル事務所に自分を売り込むべきだろうかとか、そんなことを頭の中でまとめる。
 当然、シホとも沢山話し合いを重ねることになるだろう。今はネットを利用する事も出来るため、少しくらいならば二人でネット上の活動をメインでやっていけないこともないだろうが、どうなるかはわからない。だが、考えていても纏まらないので、とりあえずは眠ることにした。疲れている時や興奮している時に考えることなんて、大抵はろくでもないことなのだから。

 そうして翌日。予想外のことが起きた。学校が終わり、ダンスのレッスンへ車で向かうのが日課なのだが、その日の広沢は顔に怪我をしていた。その怪我の理由を尋ねると、広沢は上司と喧嘩したと言って詳しいことは語らない。そして、ダンスのレッスンが終わって、二人を家まで送る途中に広沢は重い口を開く。
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