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第16章:恋心の行方
14話・終
しおりを挟むそうやって、二人の男女が自分を取り合っているとも知らず、裕也たちは修学旅行を楽しんでいた。特に古々は、宮島の厳島神社で大はしゃぎしており、裕也は古々に促されるままに一緒に行動する班のメンバーを置いてけぼりにして、観光して回らされる。明日香も、神社巡りはとても楽しいようで、班のメンバーとはずいぶんと違う温度差で観光を楽しんでいた。今日は明日香と古々の独壇場だ。
厳島神社は鹿島系の神社ではなく、タケミカヅチは影も形もない。だが、神社の周辺に鹿がわらわらと居て人慣れをしており、そんな姿を目に焼き付けるために、明日香も古々も一度は行って見たかったのだそうで。原爆資料館などにも行ったが、その時は古々が第二次世界大戦中の様子を語ることはあれど、テンションはずいぶんと低めであった。
そんな裕也が、修学旅行の夜ということで、誰が言いだしたのか『恒例の恋バナでもしようぜ』などという、お約束に巻き込まれた。
「俺は好きな人がいたけれど、すでに告白したし、フラれちまったな」
布団を並べて天井を見上げている同じ部屋の男子に、裕也はそう言って適当に誤魔化す。
「えー誰だよ? うちの学校の人間か?」
該当する人物は明日香なので、答えは『イエス』なのだけれど、色々詮索されるのはうざったいので、重要なところはぼかすのだ。
「んーん……小さいころからお世話になっている人。中学校の同級生だったんだ」
今も同級生だけれど。
「へー? 今は好きな人とかいないの? 逆に自分に言い寄ってくる奴とかさ。お前ら相撲部はいっつも人助けをしてるって噂になっているしさ。お前みたいに強くて親切な奴がモテなかったら、世の中間違ってるぜ」
「うーん……」
実は思い当たらないこともなかった。アキラと話をした時、真由美とは夏祭りの時にカップル割引される射的をしたことを思い出して。もしかしたらあれは、遠回しな告白という奴だったのかもしれない。が、やっぱり突っ込まれると面倒なので……
「いないな。俺が気付いていないだけかもだけれど」
と、苦笑する振りをした
そうして、鬱陶しい恋バナに花を咲かせることなく、何とかやり過ごした裕也は、一人部屋のトイレに入ったところで古々に話しかける。
「なぁ、古々」
『ん? なに? どうしたの? 厳島神社で出会った鹿の尻に見とれてないでしょうね?』
「んなわきゃないだろ……そうじゃなくて、さっきの恋バナ、お前も聞いていただろ?」
『聞いていたけれど、それで?』
「……本気で、俺に惚れてるやつに思い当たる奴がいないないわけじゃないからな? もちろん、アキラ以外で」
『あら、それじゃあ答え合わせでもするかしら? あなたを好きな人って言うのが、貴方の見立て通りかどうか』
「そんなことをしなくてもいいよ、古々。お前に頼るより、自分で……見つけて見せるさ。自分の恋人くらい、さ」
昔は、自分を好きになってくれる人間なんているのかと、自信を失っていた時もある。思えば中学生の時は、そんな状態で明日香に告白したのだ。例え明日香がレズビアンだとかそんなんじゃなくても、断られたかもしれない。でも、今の自分なら、誰かが自分を好きになるのもあり得る、そういう自信が出来た。
古々の、人の感情を読む能力で色々とサポートしてもらえれば、そりゃ円滑に恋人もできるかもしれない。けれど、思い上がりかもしれないけれど、それに頼ることなく、自分の力で誰かと結ばれたい。裕也の中には、そんなちょっとした野望が生まれた。
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