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第14章:愛情不足の代償

19話

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『当たり前すぎて気付かないだけで、あなたは愛してくれる人が沢山いるから、愛されないことの辛さはわからないとおもうけれど……私は人の心が見えるからわかる。あの子、本当に寂しそうだった。昔のあなたと同じ、一人きりな感じで……』
「昔の俺と同じか……でもさ、あれだよ。確かに俺、明日香や百合根には愛されているのかもしれないが……その、真由美や素華はどうなんだ? 俺は、真由美や素華が困ってたら助けたいし、嬉しいことがあったら一緒に喜ぶぞ。場合によっちゃ、体を張ったっていい……。あの子は、望海さんはそういうの……いなかったのか? 血のつながった家族じゃなくても、愛情とかそういうのはあるもんだと思うけれどなぁ? ほら、要さん、望海さんを心配してくれていたじゃん」
『いたけれど、気付かなかったのよ。例えばだけれど、缶詰の中には飲み物や食べ物が保管されている……と、知らなければ、大量の缶詰に囲まれたまま餓死することだってありうるの。愛されたことがないと、愛し方も知らない。望海ちゃんは、缶詰の中に食糧が入っていることも知らないくらい、学んでこなかったのよ……愛ってものを。愛はその気になれば、色んな所から与えられる。家族から差し出される愛情だけが、愛情じゃないって、気付くことすらできなかった』
 古々はそう言ってため息をつく。
『あの子、愛情を知らないからね。社会に出たときに、ホスト狂いにならないといいけれど……ホストクラブで与えられる自己肯定感、愛情に飢えている人にとっては麻薬だから』
「なんか生々しくて怖いな……」
 裕也はホストに狂った望海を想像する。なんでも、彼女は親に褒めてもらいたいがため、コンクールのメンバーに選ばれるために体を差し出したという話だ。そんな子が、イケメンな男たちに囲まれて褒められたり、『好きだ』とか『愛している』なんて言われたら、ころっと落ちてしまうんじゃないかと嫌な想像が浮かんでくる。
 そのうえ、不本意であるとはいえ、体を差し出した経験がある以上、風俗に落ちるまでの敷居も低くなっているはずだ。風俗に落ちて、稼いだ金でホストに通う。あり得ない話じゃない気がした。
「本当に、社会に出る前に愛情を知らねえとやばいのかもな、望海さん。でも、愛情なんてどうやって学べばいいんだ? あの子はこれからどうすれば、まっとうに自己肯定感を高められるんだ?」
 裕也が尋ねると、古々はうぅん……と唸って考える。
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