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第14章:愛情不足の代償

17話

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 望海は、明日香たちの報告を受けてからしばらくは真由美と話していたが、話す話題もなくなると家に帰っていった。普段はどんなに疲れていても発声練習や腹筋を鍛えるための走り込みや基礎体力訓練など、合唱部のための鍛錬は欠かさなかった彼女だが、その日は休むことにした。次の日も休む事にした。部活をさぼることはしなかったが、真由美の話を聞いてから、何だか馬鹿らしくなって。
 もともと、発声練習も腹筋運動も、家族にバカにされながら、『無駄な努力をしていないで勉強でもしろ』と言われながらやっていたのだ。真由美の話を聞いてから、本当に馬鹿らしくなって、急に気持ちが冷めてしまった。その分の時間を勉強に変えるとともに、ほんの少しだけスマートフォンの覗く時間に変える。自分と同じような悩みを抱えている人がいないかと探してみた。すぐに見つかり、その日のうちに話しかけてみた。
 沢山共感できることがあって、大いに話が盛り上がった。

 後日、要とも話した。要は怖かったけれどすっきりしたと、何だか誇らしげで嬉し気。望海がいろんな悩みをぶちまけると、親身になって聞いてくれた。親には話せないことを平然と話せる要という存在に、望海は大きく勇気づけられた。
 やがて、約束された300万円が現金で手渡され、それを開設したばかりの銀行口座に振り込むと、スマートフォンに記帳された金額を見て、真由美の話に実感がこもる。300万円あれば、保証人なしでアパートを借りられる、と。
 アパートの内装をネット上で調べてみると、それだけで心が躍る自分に気づき、望海は自然と笑みが漏れた。
「これが諦めるってことか……」
 親からは、高校を卒業したら働けと言われている。なるほど、それも悪くない。恐らく、親は自分が実家にいて、これからも罵倒しながら実家住まいを続けさせていくつもりなのだろう。でも望海は、両親や兄が何を言おうと、何が何でも引っ越して、そこで働こうと考える。少しでもいい場所に就職できるように、勉強を頑張ることにした。
 その時ふと、『金銭や物品でのお礼はいらないけれど、心の整理がついたら神社にお参りするように』と、相撲部の皆に言われていたことを思い出し、望海はスマートフォンを手に取った。
『あした、神社にお参りに行こうと思います』
 また真由美に会って、少しだけでも前向きになれたことを報告するついでに、これからカミナリ様に見守ってもらうためにお参りというのは、いい機会だと思えた。
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