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第13章:お祭りの日

13話

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「真由美……まさか撮影してくれるのか? ありがたいが、危ないから下がってろよ」
「わかってます。いざという時は催涙スプレーで身を守りますので、来るなら来い、です」
「お前も随分と気が強くなったな」
 真由美は裕也のことを邪魔しないよう撮影に徹するし、万一の時は催涙スプレーを使うと聞いて、裕也はそれなら大丈夫だろうと判断する。古々の案内の元向かった場所は神社の外、出店のある場所から少し外れたところにあるアパートの駐車場だ。こんなところには出店もない。大通りは人混みがひどいので、少し人込みを避けて購入した料理を食べようとしたのだろう。そんな路地裏のトラブルに対応するべく走る裕也だったがしかし、裕也が駆けつけたときにはすでに終わっていた。
「あら、裕也。私のほうが早かったようね」
『すまんな、女性にこんな荒事を任せてしまった』
 その場にいたのは、顔面を抑えてうずくまる二人の男と、百合根。普通の人間には見えていないが、振々もいる。どうやら、百合根は振々に呼ばれて助けに入り、そして見事に成し遂げたようだ。。真由美は二人の男を圧倒していたのであろう百合根を見て目を丸くしている。
「あら、真由美ちゃん、スマホなんて構えて……もしかして、正当防衛を主張するために撮影してたの? いいじゃない、真由美ちゃん、上出来よ」
 百合根はそう言って上機嫌で男の顔を踏みにじる。
「あ、どうも……なんか、裕也さんがトラブルがあったとかで呼ばれたので、不利にならないように撮影しようと思って……」
 真由美は百合根に踏みにじられながらうめき声をあげる男を見て、あぁはなりたくないなと目を逸らした。
「倒れてる男たち、なんかチャラついた格好しているが……カツアゲでもしてたのか? この二人」
 近づきながら裕也が問うと、百合根は頷いた。
「そういうこと。カツアゲさをし終わって油断しているこいつらに催涙スプレーぶっかけてやったの。で、後は膝裏を蹴り飛ばしてすっ転ばせて、わき腹を蹴り飛ばして、見ての通りの有様。もちろん、撮影して証拠も収録済みよ。女相手にカツアゲしてたところはばっちり録画済み。言い訳はさせないんだから」
 百合根はそう言って動画を見せる。百合根は助ける様子をボディカメラで撮影していたらしく、浴衣姿の女の子二人が男に胸ぐらをつかまれながら金をせびられている様子、男二人がお金を受け取る様子、それを鮮明に撮影している。百合根は何も言わずに忍び寄って催涙スプレーを吹きかけ、男たちを蹴り飛ばして、金を奪い返す。『警察は呼んでる! 早く逃げなさい!』と、奪い返した金を女の子二人に握らせると、そのまま一人で男二人を滅多打ちにしたようだ。ハバネロ以上にカプサイシンを含有する催涙スプレーは、目に入ってしまえば焼けつくような地獄の痛みで視力を奪う。
 そうなってしまえば、人数に勝る男であっても為すすべなく、百合根の攻撃の餌食になっている。
「ははぁ、これなら警察に突き出しても大丈夫ですね、しっかりクズですし、過剰防衛に……この程度なら、ならない、ですかねぇ?」
 百合根がしっかり撮影済みと聞いて、真由美は安心したのかそんなことを言う。見たところ男たちは大きな怪我をしている様子もない。
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