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第13章:お祭りの日

8話

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「あー、そういえば木村さんといえば……百合根さんのお母さん、木村ディアンって言うんですねー。フィリピン人だって聞いたときは驚きましたよ。日本は大好きだって言ってました……嬉しいような、その大好きな日本でヤクザの嫁をやるはというのはなんか複雑ですが」
 真由美は苦笑する。
「あ、あぁ……木村組って外国人の仕事の斡旋もしてるからな、百合根の両親……その関係で知り合ったらしい。フィリピン人が国籍やビザを取るために、借金で首が回らない男と結婚させたりとか、もっとあくどいこともやってたとか……昔はそれで何人も日本国籍を取らせたらしいぜ」
 裕也は木村総一郎から聞いた話を語る。ディアンが古郷でどんな暮らしをしていたのかは知らないが、3年以上木村家で暮らしていて一度も帰るそぶりがなかったあたり、ロクな家族ではなかったのかもしれない。
「そんな事情の両親とか、割と歪みそうだけれど……子供に、そういうことを話しちゃっていいんだ」
 素華はその素性がどんなものかを想像しながら唖然とする。そんな両親で、百合根は自分の生まれを呪ったりしなかったのだろうか、と。
「変に隠すよりもいいんじゃないのか? 知らんけれど。百合根のやつも、自分の生まれは受け入れてるっぽいし」
 どちらにせよ、部外者が口を出すべきことでもないだろう。複雑な家庭に産んでしまったことを申し訳なく思っている節もあるし、木村家の子供に向ける愛は本物だということは、裕也も肌で感じている。
「そういえば、いつか聞こうと思っていたんですが、三橋先輩は家族って……」
 今日は相撲部のメンバーは皆家族で来ている。しかし、裕也派にはその気配がないので、素華は気になっていたのだ。お祭りのめでたい雰囲気の時に聞くことではないのかもしれないが、こういう話題になったときでもないと、聞くに聞けない。
「いないよ、母親は薬物使用の容疑で、愛人と一緒に逮捕されてる。刑期はとっくに終えているけれど、麻薬の更生施設からなかなか出られないらしくてね。今は一人暮らし。あと、その愛人は覚醒剤の使用と売買で、あと5年は出てこないよ」
 以前よりかなり吹っ切れた裕也は、自分の過去を話すことを恐れなくなった。そもそも、相撲部のみんなならばこれくらい受け入れてくれるだろうし、自分から話すことはないにしても、聞かれたら包み隠さずに答える。
「うわぁ……それマジ?」
 素華がまゆをひそめながら問う。
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