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第12章:家出のお手伝い・後編

17話

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 遼の家出の期間中、裕也は相撲の個人戦の大会へ出場していた。地方の予選大会では一日に三度の試合が行われ、裕也はその試合で三戦三勝の成績を残して、予選を突破する。そして、裕也はこれから都道府県の代表を選ぶ大会で相撲の技を競うこととなったのだが、裕也は二回戦で格上の相手に当たって敗退してしまった。
『お疲れー。大丈夫、痛くない? そのまま寝ちゃだめよ?』
 大会を終えて家に帰り着いた裕也は、荷物を玄関に置くと、風呂で汗を流す前にベッドに横になる。押しの強い相手に散々体を傷めつけられたためか、体中痛くて熱を帯びている。汗をかいているのでシャワーを浴びたい気持ちもあるが、それ以上に横になりたい気持ちが勝ってしまった。
「まぁ、痛いけれどこの程度なら三日もかからずに治るよ」
 裕也は仰向けになり、ふわりふわりと浮いている古々を見上げる形で言う。
『良かった。格闘技とか武道とかって、怪我がシャレにならないことがあるから、ヒヤヒヤするよね』
「まあな。怪我はほんと怖いよ。いつ首の骨や背骨が折れるんじゃないかと、自分でもヒヤヒヤだ」
『でも、大した怪我もなしに元気に動けているのは、普段の鍛錬の賜物ってわけね。まともなトレーニング相手も少ないってのに、よくやるわ……今回は残念だったけれど、やっぱり本気で鍛えている人にはかなわないわね』
「あぁ、競技としての相撲のほうは少し疎かになっちまってるからな……」
 裕也は自分の手を見る。先輩がまだ部活に残っていて、毎日のように誰かを相手に鍛錬が出来たらまた違う結果だったのだろうか、とふと思う。それはそれで悪くないが、やっぱり今の人助けに時間を割く相撲部というのも悪くない気がした。
「なぁ古々、それにしても……あれだな。怪我して帰ってきたときに、誰かがいるっていうのはいいな」
『そういえば、一年前までは、この家にはあなた以外は、誰もいなかったのよね?』
「まあな。風邪を引いた時なんか、かなり心細かったよ。中学の時は百合根の家で暮らしてたし、去年の冬に風邪ひいたときは本宮家の人達が様子を見に来てはくれたけれどさ……」
『でも、私も何もできないわよ? 私の貧弱なポルターガイストじゃ消しゴム一個持ち上げるのが精いっぱいなんだから』
「そんなに卑下することはないさ。俺に対してこうやって声をかけてくれるし、いざとなれば俺が倒れても、古々が明日香に助けを呼べるだけで万々歳さ。お前みたいに気軽に話せる家族がいるって安心する……」
『こんな他の人間には見えない神使を家族だなんて……』
「俺にとっては家族さ。逆に言えば、その家族が頼りにならないってのは本当に辛いと思う。俺にも母親はいたけれど、糞みたいな奴だったし……真由美の父親とか、真由美と一緒に作業場に行ってる男……遼だっけ? あいつも、辛いんだろうな。
 なんでみんな、せっかく血のつながった家族なのに仲良くできないんだろうな……切ない話だよ」
 本宮家の家族の温かさは、眩しいくらい。聞けば、素華の家も夫婦仲は非常に良いらしい。そんな理想的な家族像がある一方で、問題を抱えた家族も多い。そういう家族の話を聞くと、何だか損しているなぁと裕也は気分が沈んでしまう。
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