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第12章:家出のお手伝い・後編

7話

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 翌日は4時半起き……とはいえ午後9時には眠りについていたおかげか、余裕をもって起きることが出来た。眠っている間に真由美が用意してくれたおにぎりを朝食として食べ、ジュースを飲んで早朝の街へと飛び出した。
 朝の6時に百合根が手配してくれた車は、現場へと資材を運ぶトラックで、本来は人を運ぶような車ではない。送ってくれるのも、ごく普通にトラック運転手をしているだけの借金も何もない正社員の男の車で、遼は助手席に乗る。あらかじめ、軽い事情のみを説明されたその男に、トラックの助手席に乗せてもらい、現場へと赴くことになる。
「どうした坊主、家出だって聞いたけれど?」
 本当に『坊主』なんて言葉を使う人間がいるのだな、と思いながら遼は答える。
「そうです、話すと長いんですが……」
 運転中は暇で、いつもはラジオを聞いていてもあくびが出る運転手であったが、今日ばかりは退屈しなかった。時に遼へ同情し、時に慰め、時に一緒になって親に怒りをあらわにしたり。遼は思いっきり不満をぶちまけてすっきりし、トラックの運転手は退屈せずに目的地までたどり着け、お互いに有意義な時間であったようだ。

 その頃真由美は、相撲部に来ていた。真由美の様子を見るためという理由もあって、珍しく百合根も相撲部の活動に参加していた。
 他の部員から質問攻めにされた真由美は、山奥の作業場であったことを得意げに語っていく。まぁ、色んな理由で借金をした人が、借金返済まで半ば強制労働じみたことをさせられている場所なので、身の上話を聞くとそれはそれは酷い物ばかりで。
 キャバクラや風俗に通い詰めたもの。競馬やパチンコ、FXなどで身を崩したもの。高級車、高級時計などで見栄を張ってそこにくることになってしまった者。誰に対しても言えるのは、全員が計画性のない、リスクを考えないダメ人間だったということだ。
 そんな人たちと出会え、人生の失敗例をたくさん知れたことはある意味で貴重な体験だったと真由美は苦笑しながら語りつくした。そして、遼は結局親と和解できずに家出を続行することになってしまったのでちょっと心配だと真由美は語った。
 その一方で裕也たちは何だかマルチ商法の勧誘の件でひと悶着あったらしく、今度親会員の男の家に殴り込みに行くとか……そういう話をしていた。なんでも裸の写真を撮られて会員をやめるにやめられないという話で、だからその男の恥ずかしい写真を撮って逆に脅してやる……と、息まいている。相変わらず、物騒なことをしているなと真由美は苦笑した。その恥ずかしい写真を取りに行く決行日は。あいにく妹と遊園地に行く約束なので、様子を聞くのは後日になるだろう。
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