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第11章:いいお話があります

4話:夢を語る奴には気をつけよう

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「とりあえず、お兄ちゃん呼んできますねー」
 自己紹介が終わったところで明日香は兄を呼びに住居を兼ねた社務所へと入り、兄を呼ぶ。
「よう、桜川! 久しぶりだな、どうしたよ、俺が恋しくなったかい?」
 明日香の兄、庄司は無精ひげをファッションのようにうまく活かす、熊のような見た目の大男だ。明日香と同じ黒髪ではあるものの、並ぶと髭があると兄妹にはとても見えない。明日香が母親似ならば庄司は父親似で無骨な見た目が特徴的だ。
「久しぶりー、本宮さん……っていうか、この場合庄司さんって言ったほうがいいかな?」
「おう、明日香もこの場にいるしな、本宮だとごっちゃになるだろ! それにしても、夏休みだから話したいだなんて連絡が来たのは意外だったな! どうした? 久しぶりに俺に打ち込んでみるか? 俺も防御の特訓もしたいしな!」
「ふふふ、それは後でね。えっと、相撲部の皆さんにもいいお話があるんだけれど、ちょっと聞いてみないかな?」
 どうやら、美紀がこの神社に訪れたのは純粋に庄司に会いたかったからというわけではないことを、この言葉で皆察した。剣道をやっていたらしい彼女が、相撲部の自分たちにどんな用なのだろう? その疑問はすぐに解消されることとなる。
「あのね、貴方たちに夢ってあるかしら? 私ね、夢を叶える手助けになるような、とってもいい話を持ってきたの」
 彼女の一言で、百合根と素華の顔が能面のようになる。他の面々はまだわかっていないようだが、残りの面々もすぐ理解することになる。裕也の後ろに憑いていた古々はといえば……
『これは、切羽詰まっているわねぇ』
 と、呆れかえっていた。古々が発言した際、庄司もちらりと古々のほうを見た。今でもきちんと彼女らのことは『見えて』いるらしい。
「夢をかなえるのってさ、すごく大変だと思うのよ。でもね、時間とお金があれば、夢をかなえるために近道が出来ると思うのよ……」
「は、はぁ……」
 饒舌に話す美紀の言葉を聞きながら、裕也は古々のぼやきの意味を考える。
「えと、裕也君だっけ? 貴方の夢って何?」
「俺? いきなり言われても、そんな……そうだなぁ。仲のいい夫婦と親子、そんなごく普通の家族でそろって食事をとりたいな。俺が、相撲を始めたのって、うちの学校にある色んな部活の中で、唯一飯を食うことがルーティンになってる部活だからさ……それで、明日香から勧められたんだよね。いや、俺いろいろ事情があって今親から離れて一人暮らしなんだけれどさ。まじ、孤独に食べる夕食と比べると、誰かと一緒に食べる夕飯のおいしさといえば……それでいて体を鍛えられるんだから、これ以上ない部活だよ」
 と、裕也は目をキラキラさせて言う。
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