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第10章:家出のお手伝い・前編
22話・終
しおりを挟む仕事が終わった作業員の寮では疲れてさっさと寝てしまうものもいるが、まだ安酒を煽っている者もいれば、ボードゲームやカードゲームで遊んでいる者もいる。遼と真由美は、お互い少しだけ今日あったことを話し合ったが……同じ高校の自分たちはいつでも話せるんだから、ここはあの輪の中に入らないと時間がもったいない……と、作業員たちの輪の中に飛び込んでいった。真由美もセクハラや一方的なボディタッチは怖かったが、催涙スプレーはもってきている。いざという時は使えばいい、とポケットの中を何回も確認して飛び込んでいった。
一通り夜の遊び(健全)を終え、二人はスマホで親しい人物に報告をする。真由美は百合根や相撲部の皆、そして妹へ。そして、遼は百合根に『一日目には大した問題は無し、二日目も頑張ります』と報告をしつつ、親からのメッセージには既読だけをつけて後は無視していた。財布などの貴重品を入れたロッカーのカギは懐深くにしまい、二人は次の仕事に向けて体を休めるのであった。
二日目からは、朝早くから遼も他の作業員と同じ労働で汗を流した。彼自身はそこまで鍛えているほうではないが、若いだけあって他の作業員よりもせかせか働いている。見張りをしている刺青の入った男も、遼に対しては厳しい目を向けることもなく、家出という事情を知っていたおかげか正規の業者であろう現場監督の男性も変に見下すような態度はとらなかった。
朝昼は肉体労働、そして夜になったら友人たちへ報告。そんな日々を繰り返して、遼は親からのメッセージを見る。四日目までは『いい加減何か言ったらどうなの?』と、こちらに対する優しい言葉をかけることもなかった両親だったが、五日目にして変化が現れる。
『りょうちゃん、私達何か間違っていたの? 悩みがあるなら言ってみて』
そんな、ようやく譲歩するようなメッセージが届いたのだ。今まで既読だけだった遼だが、この日は『帰ってきたら話すよ』とだけ返した。今はそれだけだ。ここで悩みを洗いざらい話すよりも、少しくらいは焦らしておかなきゃ、両親も自分が本気で怒っている事をわかってくれないだろう。
「あと五日。頑張ってお金を稼ぐぞ!」
きちんと残業もしているからお金は貯まるはず。給料が出たら、大きな事は出来なくとも何か好きなものを買おう。そんなことを考えながら、遼は残りの日々を過ごすのであった。
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