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第10章:家出のお手伝い・前編

21話

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 もちろん、相手の幸せを願うからと言って、お金をくれたり何かをしてくれることはなかったが、博の言葉は親から投げかけられる言葉よりもよっぽど暖かく、そして嬉しい気分になるのであった。
「ところで、あっちにも一人、若い人いますよね……あれは……?」
 話も盛り上がってきたところで、遼はまだ二十代の前半ほどに見える男を指さす。顔に『犬』とか書かれた妙な刺青をしており、そのうえ首輪までついている。何かそういう趣味なのだろうか、SMクラブに通いすぎて借金でもしたのだろうか? しかし、SMクラブでもないのに、あんな恰好をして一言も話すことなくひとりぽつんとしている男。どうしても気になるが、気になりすぎて触れるのもはばかられていた男だ。
「……あいつには絶対話しかけるな。ちょっと色々訳ありなんだ。なんでも、ここに来た理由が借金返せないとかそういうんじゃないらしくってな。まぁ、長くいるんならともかくだけれど、すぐにここから出るんなら関わんねえほうがいいよ。どうせあいつから話しかけてくることはないし、恐らく二度とシャバには帰れないような奴だ」
「はぁ……わかりました……シャバ?」
「シャバってのはその……お前が本来はいるべき、普通の人が普通に暮らしているところだよ」
 どうやら、あの男はこの作業所の中でも特に異質な存在らしく、口を噤んでいた。物凄く気になったが、確かに話しかけづらい相手なので、遼も極力触れないように目を逸らした。


 一日目の夕食が終わり、真由美の皿洗いが終わると、二人は今日あったことを少しだけ話した。真由美と一緒に仕事をしたおばさんはホスト狂いだったらしく、男の作業員と同じような経緯でここに送られてしまったらしい。男は風俗、女はホスト……それで、借金を重ね、借金を返せていないのにさらに借金をできると考えている、頭がお花畑な奴らの集まり。失敗談には本当に事欠かない場所である。
 そんなホスト狂いのおばさんから、灼熱の厨房で料理している間、呆れるほどに色んな失敗談を聞かされ、真由美は耳にタコが出来そうだったとか。自分はそんな風にホスト狂いにならないように自制しよう、むしろそんなところには絶対に近づかないようにしよう、と固く誓う真由美であった。
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