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第10章:家出のお手伝い・前編

15話

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 そして、寮の作業員が使う冷蔵庫は、吐き気を催す匂いをしていた。とりあえず、賞味期限が大幅に過ぎているものはすべて捨てさせてもらった。
 そこでようやく昼になり、真由美が作った食事が振舞われた。今日の食事は卵丼。炒めた玉ねぎに、一人当たり二個分の卵を絡め、薄めたうどんつゆで味付けした料理である。鶏卵は日本のスーパーマーケットで普通に売られているタンパク質の中では最も安価であり、とっても安上がりなおかずである。
 そして、見切り品になっても売れず、廃棄されるはずだった色も悪くしなびた野菜を使ったおひたし、そして古米で炊かれた大量のごはん。安上がりだが、何とか人が食べられるものには仕上がっている。プレハブの作業員寮から現場までは車ならば15分ほどのため、昼食の際には作業員が戻ってくる。そろそろ時間だろう。椅子に乗せて干していた布団を取り込まなければ、昼食の時に座る椅子がなくなってしまう。

「大丈夫でした、西野先輩?」
 30人近い作業員の食事を並べながら、真由美は苦笑いを浮かべて尋ねる。
「あぁ、真田さん……酷い状況だけれど、掃除させてもらえてよかったよ……これも客人の特権かね? 今日徹底的に掃除をしておけば10日くらいならもう掃除しなくても何とかなるよね……?」
「な、なるといいんですけれどね。私もあの汚い布団で寝なきゃならないのかぁ……ダニノミ退治の殺虫剤も持たせてもらえてよかったですね、ほんと」
 椅子を食卓に戻すため、干してあった布団は全て室内にしまい込まれた。夏の直射日光のおかげで大体は乾いてくれたが、それでもまだ湿気っているように思えるのは、気のせいなのか、それとも年季の入った湿気のせいなのか。
「よう、新入りの兄ちゃん。なんか若いみたいだけれどあんた客人なんだってな? よくわからんが、あの怖いお兄ちゃんの扱いが随分と違うじゃねえか?」
 食事の最中、いかにも不健康そうな禿げ方をしている、白髪交じりの男が話しかけてくる。歯もボロボロで、貧乏神とか餓鬼とか、そういう妖怪のたぐい言われれば信じてしまいそうな顔をしている。
 外で話しかけられたらなるべく無視したくなるような容姿である。
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