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第10章:家出のお手伝い・前編

3話

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 真由美が言い終わるのを待ってから、裕也が口を開く。
「世の中、死んだほうがいいようなまともじゃない親だっている。それほどじゃなくても、逃げる気概があるなら逃げたほうがいい親ならいるだろう。逃げられるときに逃げておかないと、一生親の奴隷になるしな」
 裕也がきっぱりと言うと、百合根はそうよねぇと唸る。
「三橋さん、なんというかきっぱり言いますね……親への敵意というか、親をこう、人と思っていない節があるというか……親との間になんか辛いことでもあったのですか?」
 真由美が尋ねると、裕也はうんうんと頷く。
「別に大したことじゃないよ。小学生のころに母親とその愛人が、麻薬やって逮捕されてるくらいで。何を隠そう、その愛人ってのが百合根のところの組員だったんだぜ」
 裕也が何とも軽い調子で言うと、最初はへぇ……と木のない反応をしていた素華と真由美は、言葉の意味を数秒遅れて理解して言葉を失ってしまう。これ以上触れないほうがよさそうだと、目を逸らした。
「私は両親がどっちもいい人すぎて、全くもって実感がわかない。だから知らないし何も言えない。けれど、嫌なら嫌という権利は誰にでもあると思うし……酷い親から逃げられるなら逃げたほうがいいと思う」
 明日香は言う。彼女も両親との関係は良好、素華と同じくあまり実感はわかないようだが、間接的に裕也の親のことを知っているため、世の中どうしようもないやつがいるということはよく知っている。
「私も空手とか剣道とかいろいろ学んでいるけれど、そういうのの中には親に沢山の習い事を強制されている子供もいて、その子は辛そうね。ピアノ、英会話、剣道と色んな習い事をさせていて、全く自由がない子がいるんだけれど……目が死んでいるというか、全くやる気や覇気も感じられなくって、先輩として型を教えていて空しくなったし。そういう子が教師になっても失敗する未来しか見えないと思う」
 明日香は家で教えている剣道の門下生について思うことを語る。好きでもないのに学ばせたものなんて身につかないというのが彼女の考えだ。
「私、お父さん嫌い! お母さんもあんまり好きじゃないから、大人になったら絶対に引っ越しする」
 そう言ったのは、食事の席に同席していた由香利であった。小学生では、まだ具体的な将来設計など何も考えていないことだろうが、彼女はそういうつもりらしい。とにかく、家を出たいというのが彼女の希望のようだ。
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