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第9章:最低な男を探せ
18話
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「俺は、小学生三年生の時まで、放置子って奴でさ。すっげぇ問題児で、母親は何も買ってくれないから。欲しいものは同級生や下級生から奪っていた……嫌がられたら殴ってでも奪っていた。明日香がそれを止めてくれた……殴って止めて、俺が盗みをしなくてもいいように支えてくれた。
家に俺を連れて行って、風呂に入れて飯を御馳走してくれて、兄貴のお古の服もくれた……その代わり、『もう誰からも奪うな』って、明日香に説教された。あれが無かったら俺は……それこそ、産まれなければよかった存在になっていた。
だから悔しい。あいつらの言う事が正しいから、悔しい……奇跡が起こればまともになるかもしれないけれど、奇跡なんてそうそう起こるものじゃない。だから日向の子供を中絶するのはきっと正しい事なんだ……頭じゃわかってても、すごい悔しいんだ」
『……もっと、赤ちゃんポストとか、養子縁組とか、そういうのが忌避されない社会になればいいのにね。そしたら、あの子を中絶しなくても良くなるかもしれないのに』
「かもな」
古々はどう励ませばいいかわからなかった。あなたは今愛されているとか、あなたのことを大事に思ってくれる人は沢山いるとか、そんな励ましの言葉もあった。けれど、今彼が欲しい言葉はそんなものではない気がした。
「過去ばっかり見てても仕方ないんだ。たらればの話なんて馬鹿らしいし……わかってても、割り切れないもんだよな……。
俺にそんな力なんてないのはわかっているけれどさ。ああいう子供を守れる法律とか、そういうのを作るって言うか、制度を整備するって言うか……そういうのが、出来れば……」
『あら、政治家でも目指す?』
「なんの後ろ盾もない俺がか?」
古々に尋ねられて裕也は苦笑する。
「それに、言うは易しだ。養子縁組なんて、小さい子供が好きな奴とか、子供を奴隷にしたい、いつかの北条綾乃さんみたいな奴を排除しなきゃいけないし、金で養子を取引するような人身売買じみたことをする利権団体も出そうだし。俺には、そういうのよくわかんねえ。政治家なんて向いてねえよ」
『即座にそういう問題点を考えられる時点で向いていると思うけれどなぁ』
向いていない、と言い切る裕也に、そう思っている奴ほど向いていそうだと古々は思う。政治家なんて、都合の悪い質問には答えないものだというイメージが古々にはある。都合の悪い事にもきちんと触れる裕也のほうがよっぽど信用に値するんじゃないか、と。
「そうかい。でも、いいかもな。そんなことを考えるのも……後ろ盾はないけれど、お前がいる。明日香や素華、真由美に百合根、それにアキラ……あいつらがいてくれる。たった数人かもしれないけれど、この人助けの輪をもっと広げていけば……政治家にだってなれるかもな」
『つい半年前のあなたじゃ無理かもだけれど、今のあなたなら、何だかできそうな気がする』
「本気にするなよ? 政治家になるだなんて、遅れてきた中二病の妄想みたいなもんだ」
『まぁ、無理かもしれない。でも、あなたを愛する者の一人として……本気なら応援する』
「言ってくれるなぁ……」
裕也は顔を上げ、古々に笑顔を見せる。
「ありがとう、古々……俺のこんなくだらない話に付き合ってくれて」
彼女に触れられない事がこんなにも残念だと思ったことはない。伸ばした手が彼女の手に触れることなくすり抜けるのを見ながら、裕也はため息をついた。
家に俺を連れて行って、風呂に入れて飯を御馳走してくれて、兄貴のお古の服もくれた……その代わり、『もう誰からも奪うな』って、明日香に説教された。あれが無かったら俺は……それこそ、産まれなければよかった存在になっていた。
だから悔しい。あいつらの言う事が正しいから、悔しい……奇跡が起こればまともになるかもしれないけれど、奇跡なんてそうそう起こるものじゃない。だから日向の子供を中絶するのはきっと正しい事なんだ……頭じゃわかってても、すごい悔しいんだ」
『……もっと、赤ちゃんポストとか、養子縁組とか、そういうのが忌避されない社会になればいいのにね。そしたら、あの子を中絶しなくても良くなるかもしれないのに』
「かもな」
古々はどう励ませばいいかわからなかった。あなたは今愛されているとか、あなたのことを大事に思ってくれる人は沢山いるとか、そんな励ましの言葉もあった。けれど、今彼が欲しい言葉はそんなものではない気がした。
「過去ばっかり見てても仕方ないんだ。たらればの話なんて馬鹿らしいし……わかってても、割り切れないもんだよな……。
俺にそんな力なんてないのはわかっているけれどさ。ああいう子供を守れる法律とか、そういうのを作るって言うか、制度を整備するって言うか……そういうのが、出来れば……」
『あら、政治家でも目指す?』
「なんの後ろ盾もない俺がか?」
古々に尋ねられて裕也は苦笑する。
「それに、言うは易しだ。養子縁組なんて、小さい子供が好きな奴とか、子供を奴隷にしたい、いつかの北条綾乃さんみたいな奴を排除しなきゃいけないし、金で養子を取引するような人身売買じみたことをする利権団体も出そうだし。俺には、そういうのよくわかんねえ。政治家なんて向いてねえよ」
『即座にそういう問題点を考えられる時点で向いていると思うけれどなぁ』
向いていない、と言い切る裕也に、そう思っている奴ほど向いていそうだと古々は思う。政治家なんて、都合の悪い質問には答えないものだというイメージが古々にはある。都合の悪い事にもきちんと触れる裕也のほうがよっぽど信用に値するんじゃないか、と。
「そうかい。でも、いいかもな。そんなことを考えるのも……後ろ盾はないけれど、お前がいる。明日香や素華、真由美に百合根、それにアキラ……あいつらがいてくれる。たった数人かもしれないけれど、この人助けの輪をもっと広げていけば……政治家にだってなれるかもな」
『つい半年前のあなたじゃ無理かもだけれど、今のあなたなら、何だかできそうな気がする』
「本気にするなよ? 政治家になるだなんて、遅れてきた中二病の妄想みたいなもんだ」
『まぁ、無理かもしれない。でも、あなたを愛する者の一人として……本気なら応援する』
「言ってくれるなぁ……」
裕也は顔を上げ、古々に笑顔を見せる。
「ありがとう、古々……俺のこんなくだらない話に付き合ってくれて」
彼女に触れられない事がこんなにも残念だと思ったことはない。伸ばした手が彼女の手に触れることなくすり抜けるのを見ながら、裕也はため息をついた。
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