上 下
187 / 423
第9章:最低な男を探せ

14話

しおりを挟む
「これで満足かよ……」
「ほら日向さん。写真撮影して」
「あ、はい……」
 素華に促されるままに日向はたっくんの身分証明書を撮影する。本名は竹中匠(たけなか たくみ)というらしい。
「あとは電話番号、貴方のと両親のものもね。逃げようなんて考えないことね……今度はこっちがネットを使って人探しするから」
 匠は素華を睨みつけたが、それ以上の抵抗はせずに両親の連絡先を教え、一度自分の電話で話してから日向に電話を代わらせた。
「あぁ、匠のお母さんですか? 貴方の息子が、私が妊娠したとたんに逃げたんですけれど! 親切な人が住所特定してくれなかったら、こいつそのままどっかに言ってたんですよ!」
 そんなことを大きな声で話すものだから、周囲には丸聞こえだ、201号室の住人はドアを少しだけ開けて様子をうかがっていたものの、真由美と明日香に見つめられて慌ててドアを閉じている。穏便に済む話ではなかろうが、とりあえず相手の住所を特定するまではサポートしたのだ、これで問題ないだろう。
「じゃあ、あとは当事者同士でお願いいたします……日向さん、約束は分かっていますね?」
 自分たちはもう退散したほうがいいだろうと、明日香は尋ねる。
「あぁ、神社へのお参りでしょ? するわよ」
 これはお参りをしても感謝するかどうか怪しいな。明日香はそんなことを考えてため息をついた。


 結局、日向はその後しばらく連絡をよこさず、神社にお参りにも来るまでに二週間ほどかかった。遅めのお参りついでに受けた報告では、匠は両親に散々怒られながらお金を出してもらったそうで、当分は遊びはできず、夏休みはバイト三昧になるようだ。バイトに支障が出るのも何なので、殴られたりしなかったのは幸いだろうか。
 もし支払いが遅れたときは、それなりの措置を取ると脅されているので、まさか逃げられることはないだろう。

 日向は双方の両親と合わせて6人での話し合いの結果、中絶することも決まってしまう。母胎への負担は自業自得で諦めるしかないだろう。結局、二人は収まる形に収まったという感じであった。相撲部の面々は、堕胎するという結果を聞いた時は、何だかやりきれない気分になる。あまりに無責任な二人に、静かな怒りを覚えるのだが、当の日向は軽い調子だ。相撲部の面々に『ありがとねー』と言って、堕胎も軽く見ている様子で帰っていくのであった。まともな性教育を受けたかも怪しいあの態度に、やっぱり中絶して正解だったのだ、と相撲部の面々は思うことにした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:41,868pt お気に入り:2,810

不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:103

あのね、本当に愛してる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:702pt お気に入り:90

【完結】王太子の求婚は受け入れられません!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:2,381

侯爵様が好きにしていいと仰ったので。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,476pt お気に入り:4,270

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【1羽完結】間違いだらけのクリスマス

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...